カイザー作曲 オペラ
『ポモナ』
(誉れある実り)
全18場
台本:クリスティアン・ハインリヒ・ポステル
Reinhard KEISER(1674-1739)"Pomona, Sieg Der Fruchtbaren"
Libretto: Christian Heinrich Postel
1 Ouvertüre | |
第1場 | |
(開かれた回廊。メルクリウスが空から降り立つ) | |
2 Aria | メルクリウス |
生命に歓喜をもたらすもの、 | |
それは移ろいの名で呼ばれる。 | |
黄金の果実など、 | |
無益でつまらぬものではないか。 | |
3 Rezitativ | メルクリウス |
ジュピターのことを常に嫉妬を以て見つめなければならないなら、私は思う、 私は自らの身を牢獄のなかに閉じ込めてしまおうと。 また、私には、プロセルピナと一緒になるためにプルートがなすべきことを、 つまり歩みを忌避することを指し示す力もない。 もし天国も地獄も私を満足させることが出来ないならば、私は地上の王国を選び取ることとしよう。 汝を守護し、涵養する彼のことは、秘密といえどよく知られている。 生命に喜びをもたらすもの、それは変化だ。 いや、私は何を考えているのだ! 今日こそ、ジュピターは四つの季節の争いに裁定を下す。 仲違いも衝突もすることなく、互いに結果を受け入れるだろう。 だから私は己のなし得ること、つまり彼らに天の城砦へと昇ってゆけと伝えるのを急がねばならない。 |
|
4 Aria | メルクリウス |
今日、私は一人の娘と二人のご婦人のお目通りに与ることだろう。 | |
そしてひそかに考えるのだ。 | |
その肉と髄を以て、愛のライムを煮詰めてみたいものだと。 | |
(飛び去る) | |
第2場 | |
(美しい花園の情景。フローラとゼフュロス、その眷属たち) | |
5 Duetto | フローラとゼフュロス |
いざ来たれ、わが希望よ。 | |
ゼフュロス | |
お前は私のものだ、このバラの代わりに。 | |
フローラ | |
あなたは私のものですわ、あの太陽の代わりとして。 | |
フローラとゼフュロス | |
とこしえにお前を愛でかわいがり、 | |
いつまでも変わることなく、あなたのものとなりましょう。 | |
フローラ | |
心も、 | |
ゼフュロス | |
たましいも、 | |
フローラとゼフュロス | |
この口と胸も。 | |
6 Rezitativ | フローラ |
ジュピターの裁定で、何としても勝利を得たいの。 | |
ゼフュロス | |
お前以外の誰が、それに相応しいと言えようか? いったい他の誰が、お前と争い、それを邪魔することが出来るだろう。 完璧なのは明らかなのに。 |
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7 Ritornello - Aria - Ritornello |
ゼフュロス |
お前の頬の上に、人は春を盛りと咲く花を見、 | |
その瞳が夏の太陽の如く輝くのを見る。 | |
お前の胸は、どんな果実、ぶどうの房にも勝るりんごのよう。 | |
冬を冷たく舞う粉雪さえ、お前の胸の中へと逃げ込むだろう。 | |
8 Rezitativ | フローラ |
あなたから私が雪のように冷たい言われると、 私の心はとても傷つくのよ。 |
|
ゼフュロス | |
お前ゆえに、私は愛を以てお前を見ているのだ。 太陽が昇り始めたからといっても、真昼の高みに至ることはない。 |
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フローラ | |
言い訳をしないで。胸がつぶれて、唇の色が褪せてゆくだけよ。 | |
ゼフュロス | |
果実なくして、花の美しさがあるだろうか? | |
フローラ | |
愛する者は、必ず花を求めるものよ。なぜなら果実は自分だけのものだから。それだけよ。 | |
ゼフュロス | |
冷淡な好意だね。しかも口先だけの。 | |
フローラ | |
我慢して頂戴!私が勝ち抜くために。 分っているはずよ、私の勝利あってこそ、あなたの喜びもあると。 |
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9 Aria | フローラ |
愛する者は思慮深く、己を律するものではないかしら? | |
希望は思慮の内にこそ、確かに生きているものよ。 | |
不幸は心を乱すかも知れないし、不運の星は燃え立つかもしれない。 | |
けれど、愛する者は思慮深く、己を律するのではないかしら? | |
10 Rezitativ | フローラとゼフュロス |
さあ、それでは雷神の殿堂におわす偉大なる神のもとへと参じよう。 きっと今日という日にこそ、 |
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フローラ | |
あなたの疑い深い心が、 | |
ゼフュロス | |
お前の勿体ぶった態度が、 | |
フローラとゼフュロス | |
終わることになるだろう。 | |
(二人が退場した後、彼らの眷属たちが踊り舞う) | |
第3場 | |
(舞台は森の入口に変わる。その前に穀物畑が広がっている) | |
11 Aria | ケレス |
愛は威厳の高みに遊び、 | |
優劣の区別を笑う。 | |
愛は黄金と粗金(あらがね)を、 | |
富と窮乏とをともに携えやってきて、 | |
玉座を羊小屋のなかに置き、 | |
紫の礼服を羊飼いのぼろ服に変えるのだから。 | |
12 Rezitativ | ケレス |
私の考えでは、世界は愛が生まれながらにして盲目だということを知っていたのです。 なぜなら、ジュピターがこの足下に降り、ネプチューンが遜って私に仕えるというのですから。 けれど、そんな努力もすべて虚しいもの。 人間は、天の神々がはかない望みを抱いて探し求める楽しみを私に差し出してくれる。 イアソンよ、あなただけ、あなたがいなければ、この天の世界にいようとさえ思わないのです。 |
|
13 Aria | ケレス |
ここに来てほしいの、愛しきお方よ、 | |
来てくださいな、最愛のあなた、急いで、早く! | |
寸分の疑いも容れずに、甘き思いにひたり、 | |
あなたに口づけしましょう。 | |
行ってみたいのよ、さあ、あなたとともに、 | |
永遠の悦びのなかへと! | |
第4場 | |
(イアソンとケレス) | |
14 Rezitativ | イアソン |
なんということを、おお女神よ、あなたはお望みなのか? | |
ケレス | |
私は自らの名を誇示するつもりなどないのです。 最愛のお方であるあなただけが、私の偶像なのですから。 |
|
イアソン | |
その思し召しは、私の心をかき乱してしまうのです。 | |
ケレス | |
あなたのその愚かなお心が、疑いと迷いとともにあるうちは、 私を愛することはないでしょう! |
|
イアソン | |
女神様のそのようなお言葉ゆえに、私が愛に畏れをいだいたとしても、 誰が私を咎めることが出来ましょう? |
|
ケレス | |
ヴィナスがアドニスに己を与えたのに、 テティスがペレウスの妻であり得たのに、 ティトノスがアウローラと同じ時を過ごしたのに、 ディアナにはエンディミオンがいたのに、 どうして私にだけそのようなことが叶わないのでしょう? |
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15 Aria | イアソン |
女神様、ああ、私には過ぎるのです。 | |
あなた様の思し召しは、計り知れず、限度をこえています。 | |
私には余りあるのです。 | |
16 Rezitativ | ケレス |
しばしの間、私はあなたのもとを離れなければなりません。 頂きたいわ、あなたのさよならの言葉を。愛するお方。 |
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イアソン | |
何処へ行かれるというのです? | |
ケレス | |
今日、ジュピターの神殿に季節の神々が集まり、 誰がもっとも賛美されるべきかの裁定が下されるのです。 ですから、私は行かねばなりません、あなたのもとに心を残して! |
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イアソン | |
あなた様がそうせねばならないのでしたら、 私もこの人生に別れを告げましょう! |
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17 Duetto | ケレスとイアソン |
きっとすぐにまた会えるでしょう。 | |
こうしている間にも、私の慰め、光、あなたの面影、 | |
そして口づけの甘い印象が私の胸に去来します。 | |
(ケレスが龍の牽く車に乗って飛び去る) | |
第5場 | |
(イアソン一人で) | |
18 Aria | イアソン |
あなたは行ってしまった。 | |
私だけをここに残して。 | |
あなたのいない悲しみに、私の心は尽き、折れる。 | |
けれど、喜ばしき希望は必ず勝利して、 | |
あなたとの甘い思いにまた私を誘うことだろう。 | |
19 Rezitativ | イアソン |
シリウスの炎と熱が円熟をもたらし、その熟れた果実を収穫する者なら、 農夫が天の恵みを得たときの、喜びのいかほどかを知っていることだろう。 それを知る者であるからこそ、仕える女神を助けるために、いますぐここを発ってゆくのだ。 |
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20 | Tanz des Gefolges der Ceres |
(イアソンが退場し、ケレスの眷属たちが踊る) | |
第6場 | |
(舞台は豊かに実ったオレンジ園に変わる。他の果実の木々も見える。バッカス一人で) | |
21 Aria | バッカス |
いと高貴なるブドウのしたたりよ、 | |
お前は悦びの生命の水。 | |
他の者をして、黄金と宝石に捧げさせよ。 | |
私はただお前だけを賛美しよう、 | |
悦びも生命も、ただお前とともにある、と。 | |
22 Rezitativ | バッカス |
心から笑わずにはおれぬ。季節たちがわれ先にと競い、この私を前にして、 勝利に望みを託すのが。 勝利の行方は、間違いなくこの私にかかっているのに。そう、この私にだ。 ゼウスは黄金の雨になってダナエへの思いを遂げた。 だが、この私の黄金には、より以上の力があるのだ。 |
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23 Aria | バッカス |
お前の甘美な雫で満たされるならば、 | |
幸せなことだろう、 | |
その胸をはずませながら、 | |
恍惚の悦びに満たされるだろう。 | |
いまは静かに待つことだ。 | |
そのほとばしる甘美さのうねりに、 | |
何を悩み、患う煩うことがあろう。 | |
第7場 | |
(ポモナ、バッカスと彼の眷属たち) | |
24 Rezitativ | ポモナ |
私が秋の女王となれるか?その疑いに心を乱されることはもうありませんわ。 | |
バッカス | |
これから向かう宮殿で、わかることだろう、お前のリンゴか、私のワインか、いずれが賞賛に値するのか。 | |
ポモナ | |
今日はそのことで裁定がなされることはないわ。問題は、四つの季節のうちで、誰が勝利の栄冠に相応しいか、ということよ。 | |
バッカス | |
決まり切ったことだろう。私に栄冠をもたらさないなど、とんだお笑い種だ。 | |
25 Aria | ポモナ |
押しの強さだけで、戦いに勝つことなどで来ませんわ。 | |
自らの敵を省みない者は、やがて笑いものにされるでしょう。 | |
後悔しても、あとの祭りよ。 | |
26 Rezitativ | バッカス |
フローラの花びらとは、どのようなものだ? 風や嵐の慰み物だろう。 ケレスのパンとは何だ? 腹をすかせた奴の最後の希望さ。 煙のなかであくせく働くウルカヌスの良いところは? 雪を溶かしてくれることぐらいだろう。 それに対して、ブドウの雫は等しくすべての季節への恵みなのだ。 |
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ポモナ | |
秋こそは、他の季節に抜きんでていることは確かよ。 でもそれは、この私の実りゆえ。 ブドウからつくるワインの素晴らしさは賞賛されることでしょう。 でも私は知っているの。 秋の果実は、それ以上の豊かな実りをこの世にもたらすことを。 |
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27 Aria | ポモナ |
幼き日々は春の日のようなもの。 | |
青春はさながら真夏の光ね。 | |
でもここにあるのは、結婚の高貴な姿のようなもの。 | |
ここでは果実の雫を味わい、 | |
彼方では新鮮味を失った口づけをすすり、 | |
素敵なジャムもほんの少し。 | |
ここにはラッパの形をしたきのこもあるのに。 | |
28 Rezitativ | バッカス |
そんな買いかぶりも良しとしよう。 私は女ども相手のけんかになど興味はないのでね。 |
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29 Duetto | ポモナとバッカス |
それでもやはり勝利はしたいもの、 | |
そうは言っても簡単ではない。 | |
褒美はもっとも熟練したものの手に授けられるから。 | |
(バッカスが退場する) | |
第8場 | |
(ポモナ一人で) | |
30 Aria | ポモナ |
讃えまつれ、天の神々よ、千の愉悦を! | |
誉めまつれ、星々よ、この上なき幸せな笑いの時を! | |
この満足はお前に打ち克つことができるでしょう。 | |
お前を賛美する者と、その幸せな心にも。 | |
二つの心が婚礼により結ばれるところ、 | |
天上の喜びが見いだされることでしょう。 | |
31 Rezitativ | ポモナ |
魅惑の時のうちに望むものとは何かしら? 甘い毒に包まれた苦いハーブかしら。 希望の手が差し出す悦びは、 ほろ苦いコロシントと一緒になった蜜のようなもの。 さあ、祝福された結婚は、どんな贈り物を持ってきてくれるのかしら? 満たされた幸福かしら。 まだウェルトムヌスと出会う前、 私は結婚が鎖のように思えて、それから逃げていた。 でもいまはこうして、この心と手を彼に委ね、 甘い生活のなかで、互いを見つめあっている。 おだやかで幸せな心は、私たちの別離の時間を短くしてくれるの。 |
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32 Aria | ポモナ |
私は来て、そして戻ってゆく、 | |
わが愛しのお方よ、わが願いよ。 | |
しばしの後、私は思い満たされ、 | |
喜びに湧くあなたの姿を、この胸に押し当てる。 | |
33 Rezitativ | ポモナ |
そして、楽し気に歩みながら、見せてほしいの、 秋の季節と結婚が、この世で最高の時であることを。 私が勝利を収めたならば、地も天も、 永久に独り身でいることを放棄することでしょう。 |
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34 | Tanz des Gefolges der Pomona |
(ポモナが退場し、彼女の眷属たちが踊る) | |
第9場 | |
(ウェルトゥムヌス一人で) | |
35 Aria | ウェルトゥムヌス |
お前の呼びかけに応えて、 | |
私はここに来た。わが天使、わが光明よ! | |
私の美しき人、最愛の君よ! | |
来たれ、さあ、ためらうことなく! | |
私をそんなにじらさないでくれ、 | |
もういい加減にして、その美しい顔を見せておくれ。 | |
36 Rezitativ | ウェルトゥムヌス |
お前の声が聞こえる、慰め多き、 そのものかげの向こうから。 こうして私はやって来たのに、お前は逃げるのか。 もう私を困らせないでおくれ、この胸に戻り、 私に安らぎを与えておくれ。 |
|
37 Aria | ウェルトゥムヌス |
私のところ戻っておくれ、 | |
麗しの君よ、そして私を幸せで包んでほしい。 | |
この胸のろうそくが、 | |
どんなに輝き放っているかをみてほしい。 | |
第10場 | |
(ポモナとウェルトゥムヌス) | |
38 Duetto | ポモナとウェルトゥムヌス |
ついに、やっと、会うことが叶った。 | |
わが心の至福よ。 | |
この情熱の絆は、豊潤な果実を育む。 | |
尽きることなく、あなた(お前)は、私の太陽となって。 | |
39 Rezitativ | ポモナ |
今日がどのような日か、ご存じかしら? | |
ウェルトゥムヌス | |
どういうことだろう? | |
ポモナ | |
私たちはジュピターの神殿に召喚されているのです。 いずれの季節がもっとも名誉ある地位にあるか、権威ある裁定に与るために。 |
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ウェルトゥムヌス | |
枝のたわわなる果実、その秋の実りが教えてくれよう、 栄光はお前のものだと。 |
|
ポモナ | |
私について来てくださいな。必ず勝利しましょう。 | |
ウェルトゥムヌス | |
お前が勝ってくれたなら、私もお前と喜びをともにしよう。 | |
40 Aria | ポモナ |
勝利は私のもの、 | |
そうよ、疑いなく。 | |
王冠は私のため、 | |
この額を飾るためにこそあるの。 | |
(ポモナが退場する) | |
第11場 | |
(険しい、雪に覆われた山肌。中央に鉄床がみえる。ウルカヌスと三人の眷属たち) | |
41 Aria | ウルカヌス |
ものみなすべてが雪に覆われ、 | |
冷たい霜がこの世を支配するとき、 | |
わが心は炎への敬意を以て、 | |
真実の喜びへのしるべとなろう。 | |
42 Rezitativ | ウルカヌス |
灼熱の夏は春を追いやり、あらゆる花々を覆いつくす。 秋はといえば、雨の他に何をもたらしてくれよう? ただ冬こそが賞賛さるべき。 そのときにこそ、暖かい炎によって人々の疲れた血に命が与えられるのだから。 |
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43 Aria | ウルカヌス |
炭をおこせ、炎を煽れ、 | |
鉄を熱し、打ち、曲げるのだ。 | |
腕を振り伸ばし、ともに叩き続けよう、 | |
星のごとき無数の火の粉を散らして。 | |
(三人のウルカヌスの眷属が踊る) | |
44 Rezitativ | ウルカヌス |
何ものもこの私を挫く事はできぬ。 勝利の栄光をつかみ取る最良の方法を知っているのは、 この私なのだ。 つまりジュノーの恩恵だ。 彼女は私の母であるゆえ、剣や武器がなくとも、私の勝利をたやすく請け合ってくれる。 さあ、もう一度踊れ。私は天界の黄金の間へと急ごう。 |
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(ウルカヌスが退場し、なおも眷属たちが踊る) | |
第12場 | |
(天上にあるジュピターの神殿。黄金の控えの間にて。メルクリウス一人で) | |
45 | Tanz des Schmiedek nechte |
46 Rezitativ | メルクリウス |
まだ誰も来ていないな?思ったとおりだ! ご婦人方がじゅうぶんに着飾るには、まだ時間がかかる。 フローラの装いには、それなりの出来栄えが求められるし、 ゼフュロスも彼女の髪をなんとか整えてやらねばなるまい、おしろいやこてを使ってな。 彼女の髪や胸元を飾るブーケも要るだろう。 ケレスはといえば、自分の頬にほどよく影をつけるメイクアップに大忙しに違いない。 少し前に結婚したばかりのポモナなどは、朝まで眠りこけていることだろう。おそらく来るのは一番最後。 とかくご婦人方はものごとに時間をかけるのが好きなようだ。 |
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47 Aria | メルクリウス |
恋する男は堪えなければならぬ、 | |
重たき軛(くびき)と、険しき道行きを。 | |
今日こそ報われるのだから、堪えていけ! | |
明日という日よ、さあ、待っているがいい! | |
ついに勝利を手にした時に、 | |
そうとは知らずに奴隷になる約束をさせられるのだが。 | |
48 Rezitativ | メルクリウス |
わが兄弟バッカスが来たぞ。われわれの気持ちはひとつ。似たものどうしだからな。 | |
第13場 | |
(数名の猟師たちを伴うバッカス、メルクリウス) | |
49 Aria | バッカス |
幸せな人生を望むなら、 | |
ワインの雫と狩りの獲物が要るだろう。 | |
いまぞ去れ、愛の神とやらよ、色目という悪疫とともに。 | |
瑞々しい飲み物と獲物たちが、 | |
心を生き返らせ、痛みを癒してくれるから。 | |
50 Rezitativ | メルクリウス |
よく来たな、兄弟! | |
バッカス | |
やあ、メルクリウス!君はどう思う、俺は勝てるだろうか? | |
メルクリウス | |
まあ、それはこの私次第さ。だが、ジュピターが女連中を贔屓(ひいき)するのは覚悟しておくんだな。 フローラの子どもじみた物腰は、ひょっとすると彼の目にとまるかもしれない。 あるいは、ケレスがちょっと媚びへつらえば、彼女に花を持たせるかもだ。 もしかすると、肉感的で甘い顔つきのポモナにしてやられる可能性だってある。 |
|
バッカス | |
だが、少なくともウルカヌスのやつが勝つことはないだろ? | |
メルクリウス | |
そうとも言えない。奴の妻の美しさは、君も知ってのとおりだ。 その妻ゆえに、奴さんは何かと優遇されているんだぜ。 |
|
バッカス | |
何がどうあれ、俺は勝負に出るぜ。 | |
メルクリウス | |
ケレスがやって来たぞ。彼女も同じことを言うだろう。 | |
第14場 | |
(数名の眷属を連れたケレス、バッカスとメルクリウス) | |
51 Aria | ケレス |
あなたの女神さまが、足取り軽くやって来て祝福するのです。 | |
さあ、賛美なさい、私たちの野辺や草原を、 | |
星輝ける高みへと向かって。 | |
私こそはケレス、すべての季節の中の女王なのですから。 | |
(ケレスの眷属たちが踊る) | |
52 Rezitativ | メルクリウス |
こんな勇み足では、途中で息が切れるぞ。 | |
ケレス | |
勝利までにはまだじゅうぶんな時間があるのよ。 | |
バッカス | |
俺もここにいるのだ。つまらぬおしゃべりもそのくらいにしろ。 | |
ケレス | |
お粗末な食べ物ね。ワインがあっても何もならないわ。 | |
メルクリウス | |
ウルカヌスが来る。よろめきながら歩いている。 そのうち、いやな匂いで煙たくなってくるぞ。 |
|
第15場 | |
(3名の眷属を引き連れたウルカヌス、メルクリウス、ケレスとバッカス) | |
53 Rezitativ | ウルカヌス |
おい、バッカス!何も飲む物がないのか? | |
メルクリウス | |
君をここに呼んだのは、飲ませるためじゃない。 | |
ウルカヌス | |
私だって、鉄を打つために来たわけじゃないからな。 | |
ケレス | |
ウルカヌス、あなたは勝つつもりよね、そうじゃない? | |
ウルカヌス | |
それ以外のことなど、これっぽっちも考えていないさ。 君の仲間たちには、君が出来ることを見せてやればいい。 それ以上のことを求める奴は笑ってやれ。 |
|
54 Aria | ウルカヌス |
退屈を感じろというのか、 | |
鍛冶場で鉄を打ち、酒を飲む平和な日々に? | |
娘さんやご婦人方は、何も気にせず私を信用してくれるのか、 | |
まさかだろう! | |
第16場 | |
(フローラ、ゼフィロス、ウルカヌス、メルクリウスとフローラの眷属たち) | |
55 Rezitativ | メルクリウス |
やっとお出ましだな、あのお二人さん方。 あの御仁は心のなかでもう既に勝ち組なんだ、だから、勝つためにもうそんなにあくせく戦う気はないのさ。 |
|
ケレス | |
そうね。私もそんなところだと思うわ。 愛の勝利は、天界の勝利以上のものだもの。 |
|
フローラ | |
ご裁定はまだかしら? | |
メルクリウス | |
ポモナ嬢が来るまでお待ち頂きたい。 | |
ゼフィロス | |
天の采配はいつでも春のほうを向いている。だから勝利はあなた(フローラ)のものだろう。 | |
ウルカヌス | |
真実味のない言葉だな。 | |
バッカス | |
天のすべては私に言う、違う、と。 | |
ケレス | |
私の穀物たちが、花々に好かれないわけがないわ! | |
フローラとゼフィロス | |
天がご裁定を下さることでしょう。 | |
56 Aria | ゼフィロス |
まさに願おう! | |
わがまことの望みは、 | |
炎のごとき情熱をもち、 | |
堅固なるそなたの希望の道をきわめゆくこと。 | |
それこそわが願いであると! | |
57 Rezitativ | フローラ |
私はといえば、陽気な踊りに心を遊ばせるわ。 | |
(フローラの眷属たちの踊り) | |
58 | Tanz des Gefolges der Flora |
第17場 | |
(眷属を伴ったポモナとウェルトゥムヌスが現れる) | |
59 Aria | ポモナ |
道を開けるのです、儚(はかな)き花々よ、 | |
さあ、立ち去りなさい、この場から! | |
フェーベが黄金の兄弟に姿を見せたとき、、 | |
彼女は天界の草原を退きはしなかったでしょう? | |
あなたがた花咲ける方々の後に、この果実の実りがあるのではないかしら? | |
60 Rezitativ | メルクリウス |
あなたが最後にやって来るとは思わなかったがな? | |
ウェルトゥムヌス | |
勝利はポモナとともにやって来るのさ。 | |
メルクリウス | |
しかし、もう少し早く来ることも出来ただろう。 | |
ポモナ | |
勝利は私のためにとってあるからよ。 | |
フローラ | |
そうとは限らないわ。 | |
ケレス | |
あなた勘違いしているわね。 | |
61 Trio | ポモナ、フローラ、ケレス |
私の希望は揺るがない。 | |
岩のようにかたい自信があるの。 | |
私が疑いをいだく前に、 | |
おお太陽よ、際立つ光よ、 | |
お前は見出される! | |
私の望みは絶対なのだから。 | |
62 Rezitativ | バッカス |
誰もこのバッカスのことを気に留めてはいないようだ。 | |
ウルカヌス | |
このウルカヌスのことを考えている者はいないのだな。 | |
メルクリウス | |
それ以上は何も言うな。さもないと、困ったことになる。 私は君たちにうまく立ち回ってほしいんだ。 ジュピターにもそこのところは話してある。 |
|
63 Aria | メルクリウス |
誰か一人を選ばねばならぬとしたら、 | |
それは大いに迷うことだろう。 | |
私は黒で我慢しなければならないだろうが、 | |
けれど白のほうが似つかわしいのだ。 | |
やせっぽちのほうが私を楽しませてくれるが、 | |
人々は太っちょをあてがってくるだろう。 | |
長いものは飼いならすことが出来るが、 | |
短いものは甘き汁に満たされている。 | |
(メルクリウスが退場する) | |
64 Rezitativ | ポモナ |
では、実りの秋がどんなに素晴らしいかを、踊りで教えて差し上げましょう。 | |
65 | Tanz des Gefolges der Pomona |
66 Aria | フローラ |
春の季節の祝福された子たちが、 | |
いくらかでも秋の実りに劣ることなどあり得るかしら? | |
いいえ、そんなことはないわ! | |
大地、大気、そしてこの大空は、 | |
魅惑の太陽が最初に口づけを与えたものを愛するのですから。 | |
67 Rezitativ | フローラ |
立ち上がるのです、素晴らしき者たちよ、 そしてフローラの装いが、すべてのものの前で誉め讃えられる世界を見せるのです。 なぜなら、花々の王国が持っていいるのは、 心に力を与え、瞳には喜びをもたらすのですから。 |
|
68 Aria | フローラ |
ただ一人、あなたこそが、 | |
可憐なるバラの花びらよ、 | |
あなただけが、その魅力によりて神々の王国で勝利を得る。 | |
ただ一人、あなたこそが。 | |
第18場 | |
(メルクリウス、ジュピター、ポモナ、ウェルトゥムヌス、ケレス、フローラ、 ゼフィロス、バッカス、そしてそれらの眷属たち) |
|
69 Rezitativ | メルクリウス |
戻れ、戻るのだ!あなた方が何を考え、何をしているかなど知らぬ! ジュピターが、いままさに降臨されようとしているのが分らないのか? |
|
70 Choro | 全員で |
来たれ、天界の偉大なる王、ジュピターよ! | |
われにこそ勝利を。 | |
宣したまえ、み心のままに。 | |
さすれば、直ちにわが喜びは咲けり。 | |
(合唱の間に、ジュピターが現れて中央に進み出る。彼の眷属と、神々の合唱隊は動かない) | |
71 Rezitativ | ジュピター |
わが意を受け、皆がこうして集まってくれたことを、心より歓迎しよう。 今日こそ、長年にわたる諍いに終止符を打つときだ。 懸案であった、季節のうちの誰が最も賞賛さるべき者かという問題に。 日光はこの天の場所にも降り注ぎ、北国の真の英雄が誇りある寒気を緩め帆を下げる前で、 偉大なる天球を祝福している。 大いなる父の栄光輝く支配者が、抜きんでた者として描かれておる。今もまだ、神々の名で呼ばれている者だ。 まさに今、正義に適い、栄誉の時が求められている。 あなた方もまた、そこで裁定を聴聞することとなろう。 |
|
72 Quartett | フローラ |
ようこそ、高貴なる日よ! | |
ケレス | |
ようこそ、貴重なる時よ! | |
ポモナとウェルトゥムヌス | |
あなたのもとで、われらに公正なる喜びがもたらされるのを見出す。 | |
皆で | |
ようこそ、高貴なる日よ! | |
73 Rezitativ | ジュピター |
遺憾ながら、あなた方が繋がっている親愛なる王子もご存じだ。 天国は来る朝毎に火のような花を散らす。 それは高みにある覇者の名声であり、オルデンブルグの著名な故事の風聞である。 まさに今こそ、神々の根源たるものが降り来た。 その神々の息子もまた、美徳の在りかを占有したのだ。 というのも、彼の玉座は天空の星の高みに至り、北方からの星の輝きをいや増すのであるから。 どこに、東西に等しく伸び行く、百万倍の希望の覚醒があるのだろう。 全世界の栄誉は、今まさに、それらのことどもに栄冠を与える。 遥か彼方の国に行け、高き徳が備わり、正義と寛大とが支配する場所へと。 そうだ、そこには、ただ正しき者のみが住まう。 そして、北方の守護者に求めよ、人々のなかにありて、神となる者を。求めよ、その喜びを。 さらに求めよ、この世の得難き宝玉を。 よいか、黒点なき太陽を求めるのだ。 一点の曇りもなく周囲を照らし、常なる清明さでデンマークに口づけし、知性の光を以て夜通し輝き続け、 今や幾千の歓呼のとどろきに鳴る太陽を。 |
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皆で | |
フリードリヒはここにおわす、 | |
その王国に栄えあらんことを。 | |
74 Rezitativ | ジュピター |
ゆえにこそ、汝はその裁定を聞くであろう。 そして、偉大なる女王のことをとくと考えよ、ここかしこにどれだけ春の輝きが満ち、 それが何ものにも比べるべくもないものだと。 その女神の頬に思いを馳せよ、春の花々とともに輝く、そのさまを。 この聖なる恋人たちの魂は、その栄えある二つの心の中で燃え盛る。 そうとも、盛夏よりも暑く、燃えるシリウスにも負けることなく。 秋はその胸を満たす、毒蛇などいないエデンの園で。 彼の高潔な草木は、ブドウやオリーブの木から出るものよりも、さらに成熟した魂に満たされている。 外では雪が二人を覆うことであろう。けれども内にはヘクラ火山の炎を隠しているのだ。 |
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75 Choro | 皆で |
では、その炎のうちにあって、誰が勝利するのであろうか。 | |
この二人は、それぞれ等しく、その者を好むのであろうか? | |
76 Rezitativ | ジュピター |
それは天の恵が決める。 彼らは、無数の実りのうちに、星の瞬く高みへと広がってゆくことが運命づけられている。 いま、ここでは秋は全的な力を保っているのであるから、 実りのポモナの頭こそが、勝利の栄冠を頂く。 これよりは、実り多きポモナが、実り多きルイーゼとなろう。 |
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皆で | |
天は定めたもう、 | |
実り多きポモナが、実り多きルイーゼとなる、と。 | |
77 Rezitativ und Choro | ジュピター |
ウェルトゥムヌスが喜びのうちに彼女とともにあるように、 フリードリヒもまた、その治世を喜びとなすであろう。 |
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皆で | |
ウェルトゥムヌスが彼女と喜びをともにするように、 | |
フリードリヒもルイーゼとともに喜びの世を治める。 | |
ジュピター | |
かつて、かような喜ばしき論戦があったであろうか? | |
皆で | |
これぞわれらの喜び。 | |
ジュピター | |
それでは、すべての国々が喜びの希望を表明し、絶対の義務を以て、 この高みの二人の前に額づくがよい。 |
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78 Duetto | フローラとポモナ |
数多の天恵は、ものみなを幸福にすることでしょう。 | |
(彼らの眷属たちの踊り) | |
ウェルトゥムヌスとケレス | |
この二人は豊潤な純粋さを見続けることでしょう。 | |
(彼らの眷属たちの踊り) | |
ゼフィロスとバッカス | |
天国の強き腕(かいな)は二人を守護したもう。 | |
(彼らの眷属たちの踊り) | |
ウェルトゥムヌスとウルカヌス | |
不幸を呼ぶ手荒な嵐は、彼らが知らぬままのものとなろう。 | |
(彼らの眷属たちの踊り) | |
79 Aria | ポモナ |
恵み深き緑と花盛りの森よ、 | |
伸びよ、卓越せる佳偶よ、 | |
その髪の銀色となるまで、そして天国への道を示したまえ。 | |
80 Choro | 皆で |
ポモナが実り豊かであるならば、 | |
フェーブスの輝きは彼女を温め続けることだろう。 | |
天よ、フェーブスの力を常にフリードリヒのみもとに。 | |
さすればルイーゼもまたポモナのように、 | |
豊かなる実りをもたらすことであろう。 | |
デンマーク王フリードリヒ四世、妃ルイーゼに献呈さる。 | |
終わり | |
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