リュリ作曲 オペラ

『ペルセ』

A.ドーヴェルニュ、F.ルベル、B.ド.ビュリ編曲
1770年 ヴェルサイユ版

全4幕

台本:フィリップ・キノー
(翻案:ニコラ・ルネ・ジョリボー)


Jean Baptiste LULLY1670-1736"Persée"

Remaniée par A.Daubergne, F.Rebel et B. de Bury
Version de Versailles 1770

Poéme de Philippe Quinault
Livret Remaniée par N.R.Joliveau


NAXOS MUSIC LIBLARY

Ouverture
 
第1幕
 第1場
(セフェ、カシオープ、メロープ、その従者たち)
 
Scène セフェ
我らに向けられたジュノーの深い憎悪、それが鎮まらぬことが余は恐ろしいのだ。
我らの懸命な祈りを聞くこともなく、彼女のすさまじい怒りが、あの恐ろしいメデユーサを連れて来たらと思うと。
余はエチオピアを治めているが、神々が余に対して力を以て対して来るなら、余には何が出来よう?
おお!そなたの傲慢さによって傷つけられたジュノーが、その復讐をためらわないならば、
  余の民は皆、命のない石と化してしまうだろう。
カシオープ
かつては幸せな妻であり、母であったのに。
高みにあったこの国も、私が自身の誉れをジュノーの不滅の栄光になぞらえるようなことをしたばかりに、
  今は天地の神々の怒りを抑えることが出来ません。
彼女は私の軽率なプライドに対して、厳しい罰をもたらすことでしょう。
せめて少しでも、その怒りが和らぐよう祈るばかり。
ジュノーを讃え奉る名高き技芸会を、奉納することといたしましょう。
女神を傷つけてしまった私の不遜な心は事実ですが、それがきっと、謙虚なる恭順の証しとして、
  我が虚栄と悪しき罪をあがなってくれるに違いありません。
セフェ
  怒りの神々を平伏させる偉業などあるのだろうか、
  その気になれば、全てを灰塵に帰すことも出来るのだから。
  けれどもすぐに懺悔するなら、迫り来るいかずちの一撃も止めることが出来るかも知れぬ。
余はペルセとともに、彼の父母である神々のもとへと参り、嘆願してみるつもりだ。
彼は最も偉大なる神々の子息だ。ジュノーの恐ろしい怒りを鎮めてくれるか、確かめてみよう。
彼女にすれば、この町で自らの敵、ダナエの息子の姿を見たくはないだろうから。
 
 第2場
(カシオープとメロープ)
 
Scène カシオープ
私が何を望んでいるか、あなたも知っていましょう。
フィネは我が娘の許婚。そして、可愛い妹よ、あなたがペルセと結ばれ、彼が我が一族の一員となる未来を望むのです。
けれども、それも虚しい望みになりました。愛の神はそれを許さないというのです。
あの英雄の視線は、いつだって我が娘の美しさに向けられているのですから。
メロープ
ええ、ジュピテルの息子の思いは、常にあなたのご令嬢に向けられておりますわ。
私がそれを知らないとでもお思いでしょうか?
あのお方への愛ゆえ、私はあのお方の全てを分かっているのです。
カシオープ
悲しいその心は、そっと胸に包み隠しておきなさい。
 
Air メロープ
  私の心を奪ったあのお方は、この私の惨めな悲しみを知ることはないのです。
  恥辱と怒りのうちに、私は死んでしまいましょう。
  あの不実なお方が、ひとたび私の愛の深さを知ったその時には。
 
カシオープ
自らの立場を守るためにも、その思いは抑えておきなさい。
私はもう行かねばなりません。技芸会の仕度をせねばなりませんから。
(カシオープが退場する)
 
 第3場
 
Air メロープ
(一人で)
  ああ、愛を取り戻せないなのなら、この心を自分自身に対してすら閉ざしてしまおう!
  私の心は痛みに泣きながらため息する、
  怒りとは裏腹に、己の弱さを知るばかりなのですから。
  愛の神は私を無残に打ちのめし、私はただ虚しくされるがまま。
  ああ!もう二度と取り戻せないものに、私の心は余りに深く魅入られてしまった。
 
アンドロメードがこちらへ来るわ、技芸会を観戦するためね。フィネも一緒にいる。
この二人の結婚こそが、私の思いを満たしてくれる。それこそ無二の我が望み。
(メロープが退場する)
 第4場
(アンドロメードとフィネ)
 
Scène アンドロメード
あなたの痛みを和らげ、希望を差し上げる。それこそが私の務めなのです。
それでもまだ不足がおありでしょうか?
フィネ
  だが、お前は私に愛を語ってはくれまい?
  ただ、お前が感じている義務に語らせているだけだろう?
ペルセはお前の愛を虜にした。
うつろな言い訳だけで傷ついた私の愛を欺こうとしているのだろう、私にはお見通しだぞ。
ああ!お前の愛の変わり身の早さを思えば、本当には私を愛してなどいなかったことが分かる。
アンドロメード
  私のお父様は認めております、私たちの未来はあなたにかかっていると。
  私の心が変わったからと不安にならないで。
  自身が望む幸せを確信している恋人が、どうして不運な恋敵を妬んだりするのでしょう?
フィネ
  私はあの男とこの愛の鎖を分け合うつもりはない。
  その重みはあまりに魅惑的に過ぎる。
  もしお前があの男を残酷な仕打ちで以て苦しめるなら、私はその痛みを羨むだろう。
けれども奴は何の動揺も見せはしない。
あいつが不幸だとするなら、私はその信念の不動であることに驚くことだろう。
希望の女神に見捨てられた愛は、安らぎを失ってぐらつくものなのだから。
アンドロメード
どうしてそのように悪い事ばかりをお考えになるのかしら?
どんな理由があなたの愛を脅かすというのでしょう?
私はいつだって、あのお方を慎重に避けようとしているのです。
  いったい誰が、自らの愛する人から逃げようとしたりするものでしょう?
フィネ
  自分が愛する男から逃げながら、名誉と義務のためにお前はどれだけ後悔に苛まれていることか。
  ならばお前は、畏怖しながらでもあの男を抱けばよい。
  あいつに会うのがそんなに恐ろしいのならば。
アンドロメード
全てのものが、あなたを傷つけ、すべてのことがあなたを苛立たせるのね。
あなたは、私が一人の華々しい英雄のことを忘れるように仕向ける。
そもそも、その人の取り柄になど私は何の関心もないのに。
その頑固な猜疑心、逆にあの方への眼を開いてほしいのかしら?
フィネ
ああ、お前はあの男になけなしの希望の片鱗でも恵んでやるがいいだろう、
あいつが自分の父親だと吹聴している万神の神が、怒りの槍を打ち放とうと、
奴はこの私の愛に燃えた怒りから逃れることは出来ぬ。
アンドロメード
ああ、ひどいことを言うのね!
フィネ
ふるえ、おののいているな?…ペルセはお前の心を奪ったのだ、
さもなければ、そうまでしてあの男の身を案ずるはずがない。
アンドロメード
神様はもうお怒りだわ、あなたを打ち負かすことが出来る神様のことを、あなたは侮っているのよ。
  これがふるえ、おののかずにいられるかしら?
 (奏楽の調べが響いてくる)
フィネ
人々がこちらにやって来る。お別れだ、冷酷な女よ!
私は自分の幸福の全てを、お前の手から受け取ることを望んでいた、
けれども、私のこの思いはお前には無用だったようだ。
思い起こすがよかろう、お前の父上は、この私をお前の夫として選んだのだということを。
(フィネ退場する)
 
 第5場
(カシオープ、アンドロメード、メロープ、そしてカシオープの侍女たち。
技芸会のために選ばれた若き剣術士たちの一団がいる)
 
Marche Pour l'entrée de la danse et des choeurs
(踊り手と合唱隊の入場のための)
 
Trio et Choeur エチオピア人の男と女そして人々の合唱
  おお、神々よ!我らが無垢の命を守りたまえ!
  この国の全ての民が切に願い奉る、
  我らが奉献と賛美によりて、その御心の安らけきを。
 
Récitatif カシオープ
  おお、ジュノー、未だ我らが尊びかつ崇め奉り足りぬ全能の女神よ、
  その御名によりて、輝ける若き闘士を呼び集めん。早晩婚礼の松明に照らされる者どもなり。
  各々が、我が献納奉る技芸を以て、その勇気を披露せん。
  願わくば、我らに向けられしその強き憎しみを除かしめたまえ。
  我が傲慢の罪ゆえの、己の咎は既に知りたり。
  その償いをばせんことを祈誓して、栄誉を飾らんがため、祝典の技芸を会し、今まさに挙行せんとす。
  仰ぎ願わくば、高覧を切に願い奉るものなり。
 
Airs Pour la dispute des prix de la lutte et de l'arc
(格闘と弓術の技芸のための)
 
Air et Choeur エチオピア人の少女と人々の合唱
  誉れ高き、汝、乙女の守護者たちよ、私たちにその愛を注いでくださいますよう。
  そして、麗しきヒュメーンとの契りを祝うのです。
  その賜物によって、彼の婚礼の首飾りは、
  私達全てにとっての勝利の花輪となることでしょう。
エチオピア人の少女
  私達の心に明々と火を灯し、燃え上がらせるだけでは、愛には届きません。
  あなた様の高潔なる情熱なくして、無垢なるこの心がいかに幸せな人生に導かれ得ましょう?
  
Air et Choeur エチオピア人の少女と人々の合唱
  誉れ高き、汝、乙女の守護者たちよ、私たちにその愛を注いでくださいますよう。
  そして、麗しきヒュメーンとの契りを祝うのです。
  その賜物によって、彼の婚礼の首飾りは、
  私達全てにとっての勝利の花輪となることでしょう。
 
Air Pour la dispute du prix de la danse
(舞踏技のための)
 
Choeur 人々の合唱
  ラッパよ、天に向かいて高らかに讃えよ、
  汝の歌声を以て勝利を賛美するのだ。
  褒め称えよ、勝りし英雄の栄誉を。
  天に示したまいし偉大なるみ業の時は来れり!
  ラッパよ、天に向かいて高らかに讃えよ……
  
(合唱の合間に勝者が表彰を受ける)
 
 第6場
(そこにエチオピア人の男が登場する)
 
Récitatif エチオピア人の男
逃げるんだ、我らの祈りは通じなかった。ジュノーは聞き届けはしない。
大勢の人々が不運にも石に変えられた。恐怖にひきつったこの私を見れば分かるだろう。
メデューサが現れたのだ、メデューサが我らを地獄に落とそうと戻って来たのだ。
メロープ
彼女のことを見てはなりません、その眼を見たものは死んでしまいます。
全員で
(逃げまどいながら)
  遠くへ逃げろ、そのおぞましい怪物から。
  奴がこちらに迫って来るぞ、出来るだけ遠くへ逃げるんだ。
  急げ、全力で走れ。
  我らを滅ぼすそいつの顔から。
 
Entracte
 
第2幕
(セフェの宮廷の庭園で)
 
Prélude
 
 第1場
(カシオープとフィネ
 
Scène カシオープ
どうして天はかくも私達に過酷なのでしょう?
神々よ、もうあなたたちのご慈悲を願うことは出来ないのでしょうか?
フィネ
あなたの願いによって、恨みと憎悪は取り除かれ、
メデューサは去って我らに平和が戻ったのだ。
カシオープ
彼女は再び私たちを脅かすために戻って来るかも知れません。
ジュノーの復讐心はそこまで強いのです。
他の神々も、私達を守るためとはいえ、敢えて彼女に対抗することなどしませんわ。
唯一の望みは、ジュピテルの力を借りることです。
フィネ
あなた様のお考えは存じております、何のためにそれをお望みなのかを。
とはいえ、ペルセは神の子であるという自らの出自を鼻にかけている。
あなた様の約束に応じて、あるいは王の御意に従い、王女は私のものになるでしょう。
 
 第2場
(カシオープ、フィネ、セフェ、アンドロメード、そして廷臣たち)
Scène フィネ
陛下、愛するアンドロメードの花婿として私をお選び下さいましたのは陛下でございます。
それが今では、ペルセにその座をお移ししようとされている。
私にお許し頂いた宝物を、取り上げようとなさるのですか?
セフェ
ジュピテルの息子とあらば、おかしくもあるまい。
フィネ
あの男のおとぎ話を信じておられるのですか?
全世界を支配する神の息子だなどと吹聴しているようですが、私には眉唾に聞こえます。
セフェ
そんな不信も、じき間違いであったと気づくだろう。
弟よ、彼の英雄的なおこないが、いずれお前の心の眼を開かせてくれる。
全能の神の息子であることを認めるのだ。
彼はメデューサの首を取って来るだろう。
カシオープ、フィネ、アンドロメード
メデューサの首だって!おお、恵みの神よ!
セフェ
娘はその褒美として彼に与える
カシオープ、セフェ
かような英雄に対し、他に勝る褒美があろうか?
フィネ
うまくいくとは限りません、成り行きを見守る時間を私にお与えください。
それまでは、私はこの愛の賜物をあきらめることは出来ません。
ペルセが勝利すると決まったわけではないのです。
(フィネが退場する)
セフェ
  未だなされざる神々の復讐の時に、おお天よ、
  どうかあなたの全能なる者の息子を助け給え。
(カシオープとともにセフェが退場する)
 
 第3場
 
Scène アンドロメード
(一人で)
  ああ、この惨めな運命!おぞましい怪物の一瞥で石にされてしまうなんて。
  そうすれば、もうあなたはその苦しい宿命の痛みを感じることなく、
    その心は永久に平和の安らぎに固まっていられる。
  ああ!儚いこの命、けれどもまだ生きている。千の苦しみが心を突き刺すわ。
  あのお方は心から私を愛して下さっている、だから私の全霊で以てあのお方への愛を叫ぶ。
  神々の王の息子よ、その愛の力で私達から死の危険を払ってください。。
  完全なる天界の僕たる、あの英雄を愛さずにいるなど、あり得るかしら?
  あのお方がやって来た…我が心よ、どうするの?
  …神様!あの人が行ってしまう…いえ、私のことを探していらっしゃるのね。
  でも、何と言えばいいのかしら。
  …ああ!生き地獄だわ、ため息だけでこのままさよならするなんてやっぱり出来ない!
  
 第4場
(ペルセとアンドロメード)
 
Scène ペルセ
美しく愛おしき王女様、やっとお会いすることができました!
アンドロメード
あなた様をずっとお待ち申し上げておりましたわ、でも、私は自らの義務に従います。
ペルセ
あなたが私に従順だから、私があなたに好意を寄せていると、あなたは言うのでしょうか?
違いますとも、何ものも私の情熱を減じることは出来ません。
望みがなくても、ずっと私はあなたのことを愛してきました。
あなたを守るためなら、私は喜び勇んで戦いましょう。
たとえ甘美なる見返りをあなたから頂くことがなかろうとも。
アンドロメード
思い違いをしてはいけませんわ、
辛いことを申し上げるようですが、あなた様の愛にお応えは出来ないのです。
私の心はフィネのものなのです。あの人こそ、我が夫として選ばれた方なのですから。
私たちは心の絆で結ばれています。
あなた様は、かように危険なお仕事から、何を得ようと望んでおられるのでしょう?
たとえあなた様がお勝ちになりましても、その高貴なお心映えがありましても、
あなた様は私たちの婚礼の誓いが破られることを望むことは叶いません。
ペルセ
惨めさと失望、そして嫉妬が私を襲います。
けれども喜んで死んでいきましょう、あなたが幸せであることを知ったのですから。
アンドロメード
ああ、神様!
ペルセ
あなたの瞳は私の姿によって傷つけられているかのようです。
私の姿を見るに堪えないのですね、この私の愛があなたを困らせている。
さあ、メデューサを探しに行くことにしましょう、
私の過大なる愛ゆえ、もうあなたを傷つけることのないように。
アンドロメード
どうして?私から永遠に遠ざかってしまうのね?
ペルセ様、止まって、行かないでほしいのです!
ペルセ
確かに聞こえたようだが?夢だろうか!愛する王女よ……、
ああ、何ということ?あなたの眼に涙が……
アンドロメード
ああ、あなた様は、この私の尽きない悲しみの中に、
私のあなた様への愛のいかに大きいかを、まさにお知りになりますわ。
そして、私がどうすれば、この危険なお仕事に対するあなた様の思いを挫くことが出来るか、
心を痛めていることもお知りになるでしょう。
なぜなら、その戦いはあなた様のお命に関わるものなのですから!
けれども、ああ、私はあなた様のために何もして差し上げられない!
どうしてあなた様はそんなに気高くいられるのですか?
メデューサを目の当たりにすれば、確実に死んでしまうというのに。
ペルセ
あなたもあの女の犠牲になるかも知れないからです!
アンドロメード
彼女を前にして敵う者などこの世にいないのです。
ペルセ
けれども、愛によって勇気を得たこのジュピテルの子ならば、
いかなる人間も至ることのない力を得ることが出来るのです。
アンドロメード
私のこの優しい愛を恐れて、あなた様は戦いをあきらめようとなさらないのですね?
ペルセ
あなたの愛を知るより以前から、私はあなたを守ることを心に決めていたのです。
あなたの愛を失った今となっては、いかにしてその熱い思いをあきらめられるというのでしょう?
アンドロメード
やっぱり行かれるおつもりね?
ペルセ
愛が私を呼んでいるのです。
アンドロメード
私のこの涙の意味を悟って下さらないのですね!
私のこの叫びも虚しいと…
ペルセ
やがて不滅の桂冠を載せた私を見ることになりましょう。
アンドロメード
ああ、もう二度と会えないかも知れないのに!
 
Duo ペルセとアンドロメード
  とても危ないことなのに、私にはわかっているのに、
  あなたはその冒険に夢中なのね。
  神々よ、我が愛するお方をお助け下さい!
  この私に代えてでも。
 
 第5場
(メルキュールとペルセ)
 
Scène メルキュール
(地の底より現れ出でて)
ペルセよ、いずこへと、そんなに急ぐのだ?何のために?
ペルセ
人々の不幸が、彼らを守るための偉大なる戦いへと私を駆り立てるのです。
よしや私が死のうとも、人々は私の栄誉を羨むでしょう。
私は、我が命を、私にそれを下さった神の手に預けているのです。
メルキュール
公正にして力強き神が、そなたの祈りを聞き届け、この私の声を以て答え給う。
「その高貴なる力を宿す血潮と、不幸なる者のために戦わんとするそなたの熱意、よくよく分かった。
だが、血気に逸り、危難に邁進するのみでは足りぬ。そなたには神々の助けが必要だ。
神々が、その御意のままに与えたもうぞ。拒んではならない。
そなたの勝利のために、ジュピテルの持てる全宇宙の力を伝授しよう。
嫉妬深きジュノーに、嘲りと泣き言にまみれ、顰め面をさせてやるが良い。
そなたの目指すところ、全ての天界の神々だけでなく、地獄の神さえも支え給うであろう」
 
 第6場
(メルキュールとペルセ、シクロープが踊りながら、メルキュールのものと同じ火神ウルカヌスの剣と、
羽根付きサンダルをペルセに手渡す)
  
Air Pour l'entrée de cyclopes
(シクロープの入場のための)
 
Récitatif シクロープ
  そなたのために、ウルカヌスの不朽の手がこの剣を打ち鍛え、
  この羽根をあつらえたのだ。
  さあ、行くが良い。そして絶対の勝利のうちに、お前の名声を轟かせよ。
 
Air Pour le cyclopes
(シクロープのための)
 
 第7場
(メルキュール、ペルセ、シクロープ、そして戦いの妖精たちが踊りながら入場する)
 
Air Pour l'entrée des nymphes guerrières
(戦いの妖精たちの入場のための)
  
Récitatif 戦いの妖精たち
(金剛石の楯を手にして)
最も猛々しき戦士といえども、勝利への欲の余りに己の力を過信する誤りをおかす。
もしそなたがメデューサに打ち勝つことを願うならば、賢神パラースの楯を携えよ。
  聡明なる智慧に支えられし、思慮と武勇は、
  そなたのために偉大なる御業を示すであろう!
  最も狂暴で、怒りに狂った怪物であろうと、
  その徳の力に抗うことは出来ぬ。
(妖精たちが踊り続ける)
  
Air Pour les nymphes guerrières
(戦いの妖精たちのための)
 
 第8場
(メルキュール、ペルセ、シクロープ、戦いの妖精たちと地獄の神々)
(地の底から風とともに地獄の神々が現れ、プルートーの兜をペルセに与える)
  
Air Pour l'entrée des divinités infernales
(地獄の神々の入場のための)
 
Récitatif 地獄の神
(兜を手渡しながら)
この兜は、黄泉の帝国の王、プルートーからの賜物だ。
危難に遭いし時、そなたを守るために、漆黒の暗雲でそなたを覆い尽くす。
我らが住まう地底の暗闇だ。
 
  この思議ならざる賜物は、人々が確かな成功を望む時、
  自らの策や流儀を、人目を忍ぶ秘密の覆いの下に隠すべきとの教訓を教え給う。
(シクロープ、戦いの妖精たち、そして地獄の神々が皆で喜び踊る)
  
Air Pour rassembler le différents personnages dansants qui sont sur la scène
(あらゆる者たちが相集い踊るための)
 
Quatuor et Choeur メルキュール
  今や大地と天、そして地獄、あらゆる賢き宇宙の神々が、
  そなたのいと高貴なる業を導き給う。
  そうだ、大地と天、地獄、あらゆる賢き宇宙の神々が、
  ジュピテルの子の勝利の願いを聞き届け給うのだ。
妖精たち、メルキュール、シクロープ、地獄の神とその他の者たち
  今や大地と天、そして地獄、あらゆる賢き宇宙の神々が、
  そなたのいと高貴なる業を導き給う。  
  そうだ、大地と天、地獄、あらゆる賢き宇宙の神々が、
  ジュピテルの子の勝利の願いを聞き届け給うのだ。
メルキュール
(ペルセに向かって)
  そなたの瞳のなかに、止み難き意志が燃えているのが見て取れる。
  私について来るが良かろう、さあ、行くのだ。
(メルキュールとペルセが飛びすさる)
妖精たち、メルキュール、シクロープ、地獄の神とその他の者たち
  今や大地と天、そして地獄、あらゆる賢き宇宙の神々が、
  そなたのいと高貴なる業を導き給う。
  そうだ、大地と天、地獄、あらゆる賢き宇宙の神々が、
  ジュピテルの子の勝利の願いを聞き届け給うのだ。
   
第3幕
(ゴルゴンの洞窟にて)
 
Prélude
 第1場
(メデューサ、エウリアル、ステノーヌ)
 
Récitatif メデューサ
美貌を失った私は頼むものもなくしてしまった。
あの光沢あるふさぶさとした髪よ、ひとたびはその甘き鎖を以て海神を支配したこともあるのに。
パラース、そうだ、あの無慈悲なアテネのパラースが、私の美貌を羨み嫉妬し、
私が美しかったぶん、なおそれだけ、見るからに恐ろしい姿へと変えてしまったのだ。
けれども、この凄まじくもおぞましい醜さは、あの女の狂気じみた悪事の結果であるとはいえ、
かつての私の美しさをはるかに超越している。
私は彼女がその残酷な復讐を誇示することを強く求めよう。
私は誇りとともにこの毒蛇の髪飾りをまとうのだ。
その瘴気を吐く音で、人間どもの恐怖を掻き立てるために。
Air et Trio メデューサ
  恐怖と死神を道連れに、私が行くところなら何処ででも、
  この冷たい視線の一瞥で、全ての者を石に変える。
  ジュピテルが天から投じる稲妻さえも、私の眼力に勝りはしない。
  天界の大いなる神々、大地よ、風波よ、
  復讐を望むならこの私の力に頼むが良い。
  愛の世界を失ったその代わりに、恐怖の中に生きる喜びを私は知ったのだから。
メデューサ、エウリアルとステノーヌ
  おお、猛き怒りに仕えることの甘美さよ、
  殺し、壊し、そして暴れまわる!
  おお、この世を恐怖と叫喚で満たすこの悪意こそ我らの正義なのだ。
(喜ばしげな奏楽が聴こえてくる)
Symphonie et Trio メデューサ、エウリアルとステノーヌ
  誰がいったい、この暗鬱な隠れ家を探し出したのだろう、
  この魅惑的な楽の音で我らを驚かすとは?
  こんな大胆な真似をするとは、きっと人間ではあるまい。
  それにしても、うっとりする音楽だ!なんて妙なる響きだろう!
  いったい誰が、この秘密なる暗黒の巣窟を見つけ出したというのか?
  そうか、メルキュールがこんなところまでやって来たのだな。
 
 第2場
(メルキュール、メデューサ、エウリアルとステノーヌ)
 
Scène メデューサ
そうまでして、この私の魔力を借りたいのか?
自惚れたっぷりの人間どもが、お前の気に障ったというわけか?
奴らに仕返ししたい、そうだろう?この蛇の毒で、連中を責めやつしてやろうというのだな?
どこの誰の上に、私の怒りを落としてやればいい?
その気の毒な王国の名を私に告げよ、それで終わりだ。
メルキュール
  本当は、この世界が安らぎと平和に包まれた姿を見続けていたいのさ。
  お前は、その平穏を乱す野蛮な楽しみに飽くことはないのか?
メデューサ
何故この私が、この心を支配したと同じくらい巨大な、
煮えくり返るような恨みを生み出したと思うのか?
私が野蛮さを学んだ、まさにその狂った神々ゆえだぞ。
メルキュール
  その気持ちもわからないではない、お前の受けた仕打ちは余りに酷いものだ。
  お前の罪は、ただ絶世の美貌の持ち主であったということだけ。
  パラースの恨みを買うことさえなかったら、
  お前は愛の矢を以て人々の心を苦しめるだけですんでいただろうに。
メデューサ
  何のために、もう失くしてしまった、決して取り戻せないもののことを語るのか?
  どうしようもない苦悶が続くだけなのに。
  ああ!人々が怖がっている姿を見ると、
  かつて私が愛らしい姿であったときの残酷な記憶がよみがえる。
メルキュール
  気の毒なお前のために私がしてあげられるのは、
  優しい眠りの中の平和を与えてやることだけ。
メデューサ
  休息など、生々しいこの怒りには全く似合わない。
 
Air メルキュール
  おお、甘き眠りよ、悲しみと孤独のうちにあっても、あらゆる不安を消し去ってくれる
  お前の心地よき魔力の、何と恵み深いことだろう!
  その不滅の力は、あらゆる悩み、気がかりを消し去ってくれる、
  何処にあっても苦しむ者の痛みを和らげてくれるのだ。
  おお、甘き眠りよ、恵み深き守り神よ!
  来れ、而してこの憎しみの大地にヒナゲシの褥を敷き詰めよ。
  お前の力を以て、この世界はよみがえるだろう。
 
Trio メデューサ、エウリアルとステノーヌ
  違う、違うぞ、そうじゃない!
  我らのこのわびしい心を満たしているもの、それは嫌悪と悪意だけ。
  休息は我らに何も与えてはくれぬ、決して。
  眠りは我らにとっての禁忌なのだ!
  
 第3場
(舞台に広がる雲の中を、眠りの精たちが登場する)
 
Premier Air En sourdines pour l'entrée des ministres du sommeil
(台詞のない眷属たち、及び眠りの精たちの入場のための)
 
Choeur 眠りの精たち
(ゴルゴン三姉妹の歌に中断される)
  あなたたち、諦めなさい、私たちに身を委ね、応じることです。
  ほんの一瞬で、あなたたちを捕まえてしまうのですから。
  そうです、諦めるのです、無駄な抗いはやめて、
  そっと静かに、その眼をおつぶりなさい。
メデューサ、エウリアルとステノーヌ
  違う!我らのこの惨めな心を満たすのは、嫌悪と悪意だけなのだ。
眠りの精たち
  あなたたち、諦めなさい、私たちに身を委ね、応じることです。
  ほんの一瞬で、あなたたちを捕まえてしまうのですから。
  そうです、諦めるのです、無駄な抗いはやめて、
  そっと静かに、その眼をおつぶりなさい。
(続くエールの間、眠りの精たちがゴルゴン三姉妹を睡魔に誘おうと同じ呪いを繰り返す。
三姉妹は何とかそれに抵抗しようとする)
 
Airs Poui les ministres du sommeil
(眠りの精たちのための)
 
Choeur 眠りの精たち
  私たちは皆さんにお授けしましょう、眠ることの幸せを。
  嘆きに満ちたため息も、憂い深き涙さえも、
  全てはその不思議の力に道を譲るのです。
  その快き祝福が、あらゆる虚しさからあなた方をお守りするでしょう、
  見てくればかりで当てにならぬ望みは実体のない亡霊のよう。
  有閑の遊びこそが皆さん方の真実であるべきです。
  さあ、私達とともに勝利の場所へ。
 
Trio メデューサ、エウリアルとステノーヌ
  私たちの瞼はもう限界だ、
  甘い眠りの中へと落ちてしまう。
(ゴルゴンたちは岩の上で前後不覚に陥る。
眠りの精たちは、呪文によってゴルゴン三姉妹を眠りにつかせると、もといた雲の上へと戻ってゆく)
 
Dernier Air Pour les ministres du sommeil
(眠りの精たちのための)
Scène メルキュール
ペルセよ、今だ!メデューサが眠っている。
物音をたてずに近づくのだ、この恐ろしい敵を目覚めさせぬように。
彼女を見てはいけない、確実に死んでしまうから。
ペルセ
あなたのご忠告に従いましょう。
メルキュール
私はこの危難の中にそなたを残してゆく、あとは自身の不動の勇気に頼み、
それを信じて勝ち抜くのだ。
ペルセ
勝利はこの私に素晴らしい報償を与えてくれるのです。
いったい如何なる脅威がこの私を退かせることが出来るでしょう?
愛と勝利の栄光がひとつとなり、私の気持ちをはやらせます!
 
Prélude
 
 第5場
(ペルセ、ゴルゴン三姉妹。雷鳴の轟きが響いてくる)
 
Scène ペルセ
世界は今こそ恐怖から解放される、忌まわしき怪物よ、神々の与え給う我が剣を受けよ。
エウリアルとステノーヌ
(いかずちの音とペルセの声に目覚め、その声のほうに駆けていく)
メデューサを殺したのだな、悪辣な人間め!死ね!恐怖のうちに息絶えてしまえ!
(二人のゴルゴンがペルセに立ち向かうが、魔法の兜のおかげでペルセの姿は隠されて見えない)
誰が奴の姿を隠しているんだ?
(クリュサオールとペガース、そして数多の異形の生き物たちが、メデューサの血から生まれ出る。
クリュサオールとペガースは、そのまま空へ飛翔する)
 
Duo エウリアルとステノーヌ
  死してなお、メデューサは世界を支配するのだ。
  彼女の血は奇怪にして異形の者らを地の果てまで連れて行くだろう。
(音楽の間、怪物たちがペルセを追い詰めようとするも、未だその姿は見えない)
 
Air Pour les fantômes et le monstres nés du sang de Méduse
(メデューサの血から生まれた幽霊と怪物たちのための)
 
Duo エウリアルとステノーヌ
  怪物どもよ、お前の餌食を探し出せ。
  お前に生命を与えた、その血のために仇を討つのだ!
  我らの激しきこの怒りを心に留めよ、そして戦え!
  メデューサと、我らの復讐のために!
 
 第6場
(メルキュール、ペルセ、エウリアルとステノーヌ)
 
Scène メルキュール
ペルセよ、そなたの愛が待つ場所へと飛んでいくが良い。
ゴルゴンども、もうお前たちに力は残っていない。
空っぽの巣穴の漆黒こそがお前たちには相応しかろう。失せろ、暗闇の中へ、永遠の夜のうちへと。
(ペルセがメデューサの首を携え、飛び退っていく。怪物たちが彼を追おうとするも、
エウリアル、ステノーヌもろとも、メルキュールによって地底の底へ突き落される)
エウリアルとステノーヌ
(墜落しながら)
  おお!暗黒の深淵が口を開けている、地獄の入り口が我らを呑み尽くそうとしている、
  吸い込まれてゆくぞ!
  
第4幕
(海、岸辺の岩場で)
 
 第1場
(フィネがいる。舞台から見えないところにはエチオピアの人々)
Choeur et Scène エチオピアの人々
  さあ、急ぎ行け、急いで、
  メデューサに打ち勝ちし者に祝福を与えるために!
フィネ
ペルセが戻って来た。人々は賞賛の嵐だ。
この幸いは、しかし私にとっては失望だ。もはや私の望みは無くなったのだから。
 
 第2場
(フィネとメロープ)
 
Duo et Scène フィネ
  私たちは同じ苦しみを分け合っている!
メロープ
  ペルセを歓呼して迎える、人々の渦から逃れましょう!
フィネとメロープ
  同じ不幸が、私達にやるせなき涙を連れて来る。
  同じ悲しみ、同じ苦しみを分け合う私達に。
メロープ
ペルセが帰って来ました、けれども、それはアンドロメードのため。
恋心に駆られてあのお方を見るのが、少し早すぎたのですわ。
あのお方に私のほうを向いて頂きたかったけれど、それも虚しかった。
あのお方の瞳は、ただご自身の愛する人を見つめるためだけにあるのですから。
私のつまらぬやきもちになんか、気を留めることもありませんわ。
この切ない思いに、一顧だにしてくれることはないのですから。
フィネ
天の神々はかくもペルセに奇跡の力を与え給うた!
狂暴な怪物どもが、あの恋敵を何とかしてくれるだろうと思っていたのに。
数多の邪魔が入ったにもかかわらず、あの男は勝利した。
そして何とも信じられぬやり方で戻ってきたのだ、そう、空を飛ぶような速さでこの場所に。
メルキュールとアモールが揃って助力したのだろう。そうだ、翼を与えたのだ。
人々は思っている、全てはペルセのおかげだと。海辺では奴の名前が轟きわたっているではないか。
王はその勇気に応えて、褒美を急ぐだろう。人々は皆が奴を歓待している。
その面前で、アンドロメードの何と幸せそうなことだろう!
あいつの大勝利さ!まさに黄金の日々だろうよ!
そして私にすれば、激しい怒り、そして恐ろしい絶望しかない。
(海の波が大きく巻き上がり、岸辺を洗ってゆく)
 
Duo フィネとメロープ
  すさまじき風よ、お前は穏やかなる平和を繋ぎとめる絆を壊して吹き抜けるのか。
  突然の嵐よ、お前はこの大海原を恐慌で呑み尽くすのか。
 
 第3場
(フィネとメロープ、エチオピアの人々)
 
Choeur et Scène エチオピアの人々
(舞台の見えないところで)
  おお、残酷なる神々よ、
  この吹く風のおぞましさはいかばかりか!
フィネとメロープ
今となっては、誰がこの恋人たちの幸せを妨げられよう?
(舞台に出てきたエチオピア人達に向かい)どうしてお前たちはそんなに嘆き悲しんでいるのだ?
エチオピアの人々
容赦なきジュノーは、さらに私達を不幸に突き落そうというのだ。
彼女はナプテューヌの力を駆って私達を脅しに来る。やがて海獣が波間から現れて、
可哀そうなアンドロメードを餌食にしてしまうだろう。
この生贄の荒療治で、どうにか悪しき災いが納まるのを望むばかりだ。
彼女をこの岩場に残し、怪物の獲物にするしかないんだ。
ペルセが助けにくることだろうが、もう駄目だろう。
(エチオピアの人々が海岸の岩場に大勢つめかけている)
フィネ
正直に言おう、私はそれで満足だ。
メロープ
あなたはアンドロメードがどうなろうと苦痛を感じないのですか?
フィネ
死神があの女を奪うのは、この私からだとでも?
絶大な苦しみを味わうのは、ペルセのほうだ。
  私の心にあった愛はもう死んだ。
  そして怒りへと置き換わった。
  あの女が得意顔の恋敵に抱かれるのを見るよりも、
  怪物の餌食になるのを目の当たりにするほうがまだましだ。
メロープ
けれど、神々の中の神が、その絶大なる力を振るったら?
如何にジュノーでも、ジュピテルの息子が勝利するかもしれない?
フィネ
なぜ私を不安に落とす?今こそ恨みを晴らすべきだ!
あのいけ好かない敵をさっさと片付けてやろうじゃないか!
配下の者は既に準備している、機を逃してはならぬ。恨みは骨髄まで達しているのだ。
さあ、来い、憎しみこそが我らの旗印だ。
(二人が退場する)
 
 第4場
(セフェ、カシオープ、アンドロメード、岩場の上のエチオピアの人々、そしてトリトン達)
(海中からトリトンが現れ、アンドロメードを取り囲み、彼女を岩山に縛り付ける)
Scène カシオープ
取り返しのつかぬ私の罪の、どうか贖いをさせて下さいますよう。慈悲深き神様、この私にこそ、
相応しい死をお認め下さい。
カシオープとセフェ
狂えるトリトンよ、私達の娘を縛り付けるのを止めよ!
カシオープ
私を身代りにして頂戴!
エチオピアの人々
  波濤の神々よ、如何なる怒りに駆られて、
  この無垢なる者を餌食とするのか。
カシオープとセフェ
  この娘は私たちの唯一の希望、なぜそれを奪わねばならないのか?
  この祈りも涙も、あるいは叫びにすら、お前の怒りは揺らがないのか?
全員で
  この祈りも涙も、あるいは叫びにすら、お前の怒りは揺らがないのか?
トリトン
戦慄け、高慢なる王妃め!打ち震えるが良い、生意気な人間どもよ!
お前たちの傲慢こそ、よくよく学ぶべきだ、その威厳などちっぽけなものであることを。
恐怖に泣き叫べ、無礼な人間たち!天罰を受けよ!
 
Air アンドロメード
  神様、私をこんな残酷なめに遭わせるのでしたら、
  どうして甘き喜びなどをお与えになったのでしょう?
  死に赴きながら、私は切なく思いを馳せるのです、
  ジュピテルの息子が、私の夫になっていてくれたらと。
  そうしたら、私の人生はどんなにか美しいものとなっていたか!
  ああ、ご両親様、そして忠実なる民よ、
  私はこの命を以て、神々の怒りをお鎮めします。
  お母様に罪があるというならば、そのお母様の血を分けたこの私が、
  その血を流すことで、天の怒りをお鎮めしましょう。
  善きことのために死んでゆくのですから、幸せですわ!
 
Scène カシオープ
ああ、血も涙もない仕打ちよ!
セフェ
アンドロメードよ…
カシオープ
私の娘天
アンドロメード
ああ、神様!
(海獣が現れる)
エチオピアの人々
  怪物が岸辺に近づいて来るぞ、ああ、血も涙もない話だ!
トリトンたち
  恐怖に戦慄け、生意気な人間どもよ!
  天罰を受けろ!
アンドロメード
ペルセはまだ来てくださらないのね、あの方の眼の前で死んでゆけるという悲しい希望があれば、
私の苦しみも和らぐのに。
エチオピアの人々
  見よ、我らの偉大なる英雄が飛び来るのを!
 
 第5場
(ペルセが宙を飛びながら登場する)
Scène アンドロメード
私のために、ご自身の命を危険に晒そうとしていらっしゃる…おしまいかも知れない。
(ペルセはあたりを飛び回りながら海獣たちと戦う)
トリトンたち
  向う見ずな真似はよせ、ペルセよ!
  神々の怒りを畏れるのだ!
エチオピアの人々
  気高き英雄よ、戦え、そして勝ち取れ、
  愛の神がそなたのためにとっておいてくれた報償を。
(二つの声が交錯し合う)
トリトンたち
ジュピテルの息子は我らの怒りをものともせず戦った。
見よ!彼の剣の下で、怪物が息絶えてしまったさまを!
我らも波間にもぐり、深海の暗がりにある自らの住処に帰るしかあるまい。
 
 第6場
(ペルセ、アンドロメード、セフェ、カシオープ、エチオピアの人々)
(エチオピアの人々が岩場から降りてきて、喜び合う)
 
Choeur et Scène エチオピアの人々
(ペルセがアンドロメードを救い出している間に)
  怪物は死んだ、ペルセが勝ったのだ、無敵のペルセよ!
ペルセ
(アンドロメードに向かって)
  本当にあぶないところだった!
アンドロメード
  高貴なるお心に愛が呼びかけましたなら、
  不可能はございませんのね。
 
Duo ペルセとアンドロメード
  愛の絆はかくも多くのため息を欲しがるもの、
  この上なき幸せを得るためには、痛みを生きなければならない。
(短く耳障りな奏楽が聴こえてくる)
 
Prélude
 
Scène セフェ
(フィネとその配下の兵士たちを眼にする)
  何の音だ?どういうことだ、そんな馬鹿な?
 
 第7場
(フィネとその取り巻き達が登場する)
 
フィネ
  ペルセよ、ここまでだ!死ね!そしてアンドロメードを、この勝者たる私に寄こすのだ!
セフェとペルセ
(自らの衛兵たちに向かい)
  剣を抜け!
(フィネとその配下の兵卒に向かって)
  お前たちの心に憑りついたその憎悪に相応しい、決定的な罰を与えてやろう!
全ての兵士達
  我らの力の前には屈服しか道はないぞ、死ぬだけだ!
(フィネと配下の兵たちが、セフェとペルセの兵を追いやり、舞台そでに消える)
 
 第8場
(カシオープ、アンドロメード、その侍女達)
Scène カシオープ
あの者たちの怒りに火がついてしまった…おお、神様!
兵士の数がどんどん増えていくわ!
アンドロメード
ペルセは死力を尽くして戦ってくれるでしょう、でも、だめかも知れない。
あのお方の力は恐れを死らないけれど、この期に及んで誰が味方についてくれましょう?
もうすぐ、敵兵の数があの方を圧倒してしまう。
 
 第9場
(セフェ、カシオープ、アンドロメード、エチオピアの人々)
 
セフェ
(カシオープに向かって)
  そなたを守るために戻って来たぞ。
  謀反人どもに気を許すな、連中は私達を皆殺しにしようとしている!
  あの男がペルセを狙って放った矢が、そなたの妹を射抜き、命を奪った。
カシオープとアンドロメード
  助けて、何ということでしょう!
 
 第10場
(フィネ、ペルセ、そして彼らが率いる戦士たちが加わる)
 
Choeur フィネの配下達
(フィネの軍が戦いの場に戻ってくる)
  奴は逃げはしない、だから奴は終わりだ。
  いい気になった成り上がりの余所者が、この我らを相手に戦うなど!
(戦いは続き、怒りの炎はいよいよ激しく燃え上がる。
ついに、ペルセがフィネから武器を奪う)
ペルセ
(フィネから剣を奪いながら)
  お前の命はもらった、お前には死の苦しみだけで十分だ。
フィネ
(短剣で自害しようとしながら)
  自身で始末をつけてやるとも。
(フィネが自ら命を絶ち、その兵卒たちは四散して戦いが終わる)
 
 第11場
(ウェヌス、愛神ラモール、婚礼神ヒュメーン、青春神ヘーベー、美神グレース、クピドたち、
技芸と遊興の化身たち、セフェ、カシオープ、ペルセ、アンドロメード、エチオピア人の男女)
(ウェヌス、クピド、ヘーベー、ヒュメーンと、それらの眷属達が神々しく光り輝きながら降臨する)
 
Prélude  
 
Air ペルセ
  もう過酷な運命を恐れることはない。
  神々が我らの平和な日々を約束してくれるのだから。
  見よ、ウェヌスが我らを助け給うために降臨する、
  クピドとヒュメーン達を従えながら。
(場面は愛の宮殿へと転換する)
 
Récitatif ウェヌス
(神々しい後光に包まれて)
人間たちよ、平和のうちに生きるが良い。お前たちの苦しみは終わりを告げた。
その息子に免じて、偉大なるジュピテルが汝らを守り給う。
他の神々も、その絶大なる意志に従うであろう。ジュノーもまた、その怒りを納めるだろう。
 
Air ウェヌス
  グレースよ、技芸と遊興の化身よ、我が全ての眷属らとともに歌え、
  この世が恐怖から解き放たれた、この大いなる勝利の日を祝して。
  そなたたちの護りのしるしを、我らが王者のみ前に差し出すのだ。
 
Choeur ウェヌスと他の神々、人々
  歌え、この世が恐怖から解き放たれた、この大いなる勝利の日を祝して。
 
(グレースと遊興の化身がアモールとヘーベーを舞台中央に導き、ヒュメーンが二人を結びつける。
その婚礼の瞬間、舞台の下方よりせり上がる、祭壇のかしこに咲き誇るバラの枝葉に、
いくつものユリの花が絡みつく。
稲妻の柱をその爪で掴みながら、鷲に化身したジュピテルが宙をすべり、聖壇の上に聖なる灯明の火を落とす)
 
Récitatif et Air ウェヌス
さあ、ヒュメーンよ、祝福すべき今日の婚礼を挙行しよう。。
  ここに優しきヘーベー、クピド、愛の神々のおわす、
  愛の誓いとともに、皆がともにそなたの偉大なる勝利を証すだろう。
  そなたの布告によりて、技芸をしてこの二人を花咲ける栄誉とともにひとつに結びつけよ。
  おお、婚礼の神よ、惜しむことなく与えよ!
  この世界は、そなたからの幸せをこそ待っているのであるから。
 
Air et Choeur ペルセと神々、人々
  この宇宙を永遠に支配する、優美なるシテールの女王よ!
  偉大なるクピド、我らにその投げ矢の狙いを定めよ!
  その燃え立つ心、愛、喜びを感じるために、人間の心の悦びがあるのだから。
 
(技芸と遊興の化身達が、庭園で花々に飾られたクピドとヘーベーを取り囲む。
グレースが、マートルとバラで以て彼らを戴冠させ、幕となる)
  
終わり
  
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