ヘンデル作曲 オペラ

『アレッサンドロ』

全3幕

台本:パオロ・アントーニオ・ロッリ


George Friedrich HANDEL1685-1759"Alessandro "HWV21

Libretto da Paolo Antonio Rolli

NAXOS MUSIC LIBLARY

 
Ouverture
   
第1幕
 第1場
   
(アレッサンドロは、縦横無尽な進撃によってオクシドラカの城壁へと登り詰めた)
Recitativo アレッサンドロ
この程度の要塞を攻めるのに、何を手間取っているのだ。
余はすぐにでもそこに至り、学ぶべき模範を示すであろう。
 
Sinfonia, e Reci.
accompagnato
アレッサンドロ
高慢なるオクシドラカよ、天の瞋りに逆らおうとしても虚しいのだぞ。
余は雷神ゼウスの子だ。不足はあるまい。
(アレッサンドロは城壁の内側へと踊り入る。守備隊が戻り、攻囲軍を相手に抵抗をはじめる)
 第2場
(レオナートは、他の兵らと共に破城槌で城壁を破壊しようとしている))
Recitativo レオナート
おお、比類なき勇猛さよ!
急げ、陛下を援護せよ、そして城壁を大地に突き崩すのだ。
 
Sinfonia (城壁瓦解のシンフォニーア)
(要塞は陥落し、敵兵の屍が累々と続いている。
アレッサンドロは、マケドニア軍と戦って敗走した者たちに対する守備を進めた)
 
Recitativo レオナート
偉大なるゼウスに感謝します。
陛下にはご無事で何より。しかし、陛下はその勇気に頼んで、
ご自身の栄誉のためにと更なる危険を冒すおつもりですな。
陛下もご承知のとおり、今や世の安寧と御身のお命は不可分ですぞ。
万が一、陛下の身に事が起これば、アジアとペルシャ、インド、否、全世界を統治すべき徳者は他にないのです。
アレッサンドロ
友よ、余が幾多の危険を顧みないからと言って、そう責めないでくれ!
稟議よりも勇気をこそ、必要としているのだ。もし、私が事を悠長に構えていたなら、
不敗と言われる重歩兵集密軍を指揮することもなかったであろう。
何故なら、余は短くとも名誉ある生を望んでいるからだ。余は喜び勇んで死に赴こう。
戦い、そして勝利を抱いて。
 
Aria アレッサンドロ
破壊と殺戮こそが、
英雄の名を不朽の高みに導く。
  運命は勇気に味方し、
  ゼウスはその息子を助け給う。
 
(全員がその場を離れ、再び城壁の裂け目から入ってくる)
 
 第3場
 
(宿営地の崩れた壁の中にあるテントから、ロッサーナとリサウラが現れる)
 
Reci. accompagnato リサウラ
私は何を見ているのかしら?
ロッサーナ
私が見つめているものは何?
リサウラ
あの尊大なさまといったら!
ロッサーナ
その強情な功名心!
ロッサーナ、リサウラ
もしあのお方が死んでしまったら、生きてはいられない!
リサウラ
ロッサーナが哀しみに沈んでいる。
ロッサーナ
私の恋敵が悲哀に暮れている。
ロッサーナ、リサウラ
不運が脅かす、そんな不和の心は、愛によって和解できるのです。
 
 第4場
 
(インド王タシールが加わる)
 
Recitativo リサウラ
タシールが来るわ。インドの王様よ。
ロッサーナ
晴れ晴れとした顔つきで戻ってきたわね。
タシール
オクシドラカを強襲したが、陛下はご無事です。ロッサーナ様、ご安心ください。
ロッサーナ
おお、神よ。感謝申し上げます。
リサウラ
タシール、あの方の戦功について、なぜ私には報告しないの?
ロッサーナほどには関心を持っていないとでも思ったのかしら?
タシール
あなた様も同じお気持ちであることは、よく分かっておりますとも。
リサウラ
それならいいけれど。
(独白:でも恋敵の喜びはわたしにはまるで責め苦のよう)
 
Aria リサウラ
愛とはなんて甘いものでしょう。
もし嫉妬の冷ややかな毒を伴わないならば。
  変わらぬ愛と希望が約束するもの、
  でもそれは悲しき胸の内の苦さだけ。
 
(退場)
 
Recitativo ロッサーナ
あの人の戦利品に囲まれて、心が躍るわ。ただ気がかりなのはリサウラのこと。
でも、勝利者となったあの方の気を引くためなら、何でもやってみせましょう。
そうすれば、他の誰でもなく、この私だけを愛してくれるはず。
 
Aria ロッサーナ
わが最愛の人、魅惑の君、真実の愛の矢よ。
ただの一瞥で、あなたは優美に唇の上を舞い、
そして私の自由を完全に奪い去ってしまう。
  嫉妬と疑い、苦きこの喜び。
  愉悦と責め苦のはざまに漂う、刹那の期待。
  それはそう、美しき、恋人たちの刃(やいば)。
 
Recitativo タシール
私はまったく狼狽しているのだ。アレッサンドロ様の後ろ盾として、
その陛下を引き立てていかねばならぬ自分が、こともあろうに陛下の恋敵となってしまうとは。
我が玉座は陛下あってこそだ。その陛下が、私のリサウラを愛している!
嫉妬は賜物を汚してしまう。そしてにがい苦しみと共に思い起こさせるのだ。
王国を安泰に導いてくださったそのお方こそが、我が胸を掻き乱すお方であることを。
 
Aria タシール
射よ、正しき愛の天使よ。
我が恋敵の心に別の矢を。
そして、彼の想いを誰か別の人のために燃え上がらせてくれ!
  私がまことの愛を向ける人、不実の人よ。
  我が愛を後ろめたく思うとは。
 
 第5場
 
(城壁のはざまで。アレッサンドロ、タシール、レオナート、クレオン、クリートそして随行の兵士たち)
 
Solo e Coro アレッサンドロ
戦いと勝利こそが、余に高き誉れと名声をもたらす。
タシールと武将たち
世界に並ぶものなき、栄光の帝。
アレッサンドロ
月桂樹の冠と棕櫚の葉は……
タシールと武将たち
偉大なる精神をこそ飾り給う。
アレッサンドロ
あまたの諸国とこの帝国は……
タシールと武将たち
高貴なる徳心の証し。
アレッサンドロ
遍く大地から大海の深みまで……
タシールと武将たち
すべては力と勇猛心を生み出す。
アレッサンドロ
おお、そこにも見知らぬ国があるぞ!
タシールと武将たち
大帝の威厳の前には微塵の如し。
 
Recitativo アレッサンドロ
クレオンよ、ゼウスへの供犠の準備は全て整った。
この試練のときに、誰がゼウスの息子を助ける?
クレオン
お任せください。偉大なる父君であるゼウス様を、まずは崇め奉りましょう。
そして次には大帝陛下を。
戦いにあっては、ゼウス様は天界の王、陛下は地上の王なのですから。
 
 第6場
 
(リサウラとロッサーナがやって来る)
 
Recitativo アレッサンドロ
勝者から美しき者の手へ、喜びの勲章がもたらされる。私の可愛いロッサーナよ、
そなたを我が胸に抱きしめよう。
クレオン
(独白:なんて惨めな気持ちだ!)
リサウラ
(独白:怒りがこみ上げて来るわ)
ロッサーナ
私の本当の幸せは、あの危険な戦からこうして無事にお戻りになられた
あなたとこうしてまみえることですわ。
アレッサンドロ
余には人間の手による打撃など何でもないのだ。
クレオン
陛下、リサウラのもとへは参らぬのですか?
アレッサンドロ
麗しきリサウラよ、勿論、そなたに再会できた喜び満たされておる。
ロッサーナ
(独白:私を裏切るつもりかしら。ああ、嫉妬でおかしくなりそう)
 (退場)
タシール
 (独白:リサウラと陛下の素っ気無いやりとりか。ここはそのままにしておいたほうが良いかな?)
(アレッサンドロに向かって:怒ったロッサーナが行ってしまわれましたよ。
ご覧になりましたか?)
アレッサンドロ
(独白:何だって?しまった!)
可愛いロッサーナ、ちょっと待ってくれ!
 
(ロッサーナを追って退場)
 
リサウラ
ああ、私の愛は裏切られてしまったのね!怒りすら虚しく感じられてくる。
このあるまじき状況、私は決して我慢なんかしないわ。
 
Aria リサウラ
いいえ、私は我慢なんかしない、こんな理不尽なことなど。
波のように揺れ動き、落ち葉のように軽々しい、その浮気心になど。
  そうよ、我慢しないの。愛は耐えるものと言うけれど、そんなこと出来ない。
  あの人が他の女を愛するなんて。
 
 第7場
 
(部屋の中。ロッサーナとアレッサンドロがいる)
 
Reci. accompagnato ロッサーナ
取るに足らぬ美貌、物笑いの媚態……。
浮気なあの人を繋ぎ留めるには何の役にも立たない。
私がうっとりしたところで、どう仕様もないのよ。
なんて虚しいのかしら。神々も私を見捨てるのね。
美しさも可愛らしさも、全部意味のないものに思えてくるわ。
 
Recitativo アレッサンドロ
おお!やっとつかまえたぞ。どうして逃げたりしたんだ?
可愛いロッサーナよ、我が真実の愛は、そなただけに向けられているのだ。
余の勝利の完全さを、そなたの顔の中に見ているのだから。
そなたこそは、大いなる我が勝利の賜物。余の栄光そのものだ。
なのに、その愛らしい瞳の静けさを何が掻き乱してしまう?
その心と同じ優しい微笑を、もう余に見せてはくれぬと言うのか?
ロッサーナ
この唇もこの心も、すべて私のものですわ。
それがご不満ならば、空々しい言葉をかけて差し上げてもいいし、
チラ見だけでもして差し上げますけれど、大切なのは自分自分自身だけ。
それ以外の愛は語りたくない。
 
Aria アレッサンドロ
心ほどの誠と堅実さもないように、
余の言葉はそれを装った。
が、さすがに降参しよう。
余は美しく愛らしいそなたの、真の恋人であると。
  魂はただ、余の愛を独り占めにする無慈悲な恋人を褒め称える。
  まだ言葉にはしていないが、彼女は余の心を知っていよう。
 
(退場)
 
Recitativo ロッサーナ
そうよ、あの人の言葉にはうっとりさせられるし、
私への愛も感じる。
でも、あの人がリサウラのことを見て、心と身体がそちらに行ってしまうようなことがあったら、
ああ、私はどうすればいいの?
あの人が血迷っているとでも信じ込むしかないわ。
あの人は私を愛している?そう思いたい。でも不安なの。
 
Aria ロッサーナ
甘い恋心はささやく、あの人は私を愛していると。
でも不安は言うの、あの人のため息は私ゆえではないと。
私の心は揺らめき、恐れ、そして望みを託す。
心はまだ知らないのね、どちらが真実を告げているか。
  私の心、それはまるで地に全ての葉を落としてしまうまで、
  二つの風のはざまでいつまでもゆれ続ける枝葉のよう。
 
(退場)
 
 第8場
 
(クリート、クレオン、そしてレオナート)
 
Recitativo クリート
君はロッサーナのことを愛しているようだな。
平気そうな顔をしているが、どうやってあの強大な恋敵に太刀打ちするつもりだ。
クレオン
地上の力は神に逆らうことは出来ぬ。我が不運はどうしようもないんだ。
ゼウスの神殿で、今日、陛下は生贄を捧げる祭祀を執り行う。
そうさ、眩いばかりの英雄は、つまり地上の神なのさ。
 
(退場)
 
クリート
我が友レオナートよ、君はあのごますり屋と一緒じゃないだろうね?
レオナート
そんな君の言葉こそ、僕には不快に思えるよ。
僕はいつだって、それを名誉に思って君と歩みを共にしてきたし、
真実の友情を大切にしてきたのだ。
我々はともに、同じ危険を乗り越えてきた仲じゃないか。
 
Aria レオナート
偉大なる魂の誉れ、それは友情と勇気。
  それらなくして、誰も英雄の資格を得ることは出来ぬ。
 
(退場)
 
Recitativo クリート
これまでそうだったように、これからも、僕は常に陛下のまことの同伴者だ。
たとえ陛下の指揮のもと、あるいは陛下のお命をお守りするために、我が身を危険に晒そうとも。
でも、愚かなおべっか使いになるつもりはない。
部下の尊敬を求めようというなら、誰か他のものに任せよう。
陛下は、陛下を愛する者の気持ちを解ろうとしないんだ。
 
Aria クリート
軽やかに拍車がかかり、優しく手綱が牽かれる。
気高き駿馬は嬉々として従う。
  けれども騎手が横柄にも彼を荒々しく扱って、
  わき腹を力まかせに蹴りつけるようなことがあったなら、
  彼は己の背から主を振り落とすことだろう。
 
 第9場
 
(ゼウス神殿にて。ゼウス、ヘラクレス、そしてアレッサンドロの彫像が置かれている。
祭司長として、クレオンはアレッサンドロを迎える準備をしている。
他にロッサーナ、リサウラ、タシールそしてクリート)
 
Sinfonia
 
Recitativo クレオン
全能の人、勇敢なる覇者、雷神の子へ、即ちアレッサンドロ大帝陛下へ。
我らの祭壇は赤々と燃え上がっております。他の神々にすると同様、大帝陛下に
アラビアの高貴な香料をお捧げしましょう。
 
Sinfonia, e Reci.
accompagnato
アレッサンドロ
天界の指導者よ、その誕生を謹んで崇め奉ります。
栄誉は神々ゆえにもたらされました。全ての戦利品の輝ける栄えを捧げます。。
 
(香炉に盛られた供物が、彫像の前を通り過ぎる)
 
Recitativo タシール
永遠なる神々の王のご子息であるあなた様に、
そしてゼウス神に、わがインドの宝物を捧げます。
クレオン
生まれながらの神、最高の王者、不滅にして賢く、慈悲深く、
偉大なる者。
この世界と共に、我はあなた様にひざまづく。
クリート
(独白:怒りが燃え上がるようだ)
我はゼウスにのみひざまづく。血と蛮勇によって王となる者よ、
満たされよ、だが神々を辱めることなかれ!
アレッサンドロ
こやつめ、神に等しい余を敬うのを拒もうというのか?
身を低くし、ひれ伏して、己を忘れて崇めるのだ!
(独白:何としてもあの男を屈服させてやる)
クリート
してこちらの先達のお方は、ゼウス様への捧げものに、
その粗野な性格とそれゆえのお怪我を差し出されるのですな?
アレッサンドロ
この不届き者、傲慢なる輩め。うせろ、他所へ行ってほざけ!
クリート
きっと後悔しますぞ。
 
(退場)
 
ロッサーナ
どうか怒りをお鎮めください。そんな恐い顔をしないで。
リサウラ
あの男がけんかを売るからだわ!
アレッサンドロ
よしよし、可愛い女たちよ。
だが、あの男はそなた達の神を侮辱したのだぞ。余の神ではないのだ。
 
Duo ロッサーナ
気を落ち着かせて、胸をお鎮めなさいまし!
平和と静けさこそ愛の欲するもの。
優しさこそが、ささくれ立った心と怒りをなだめることが出来る。
リサウラ
穏やかな心、平和そして自制心。それが愛のしるし。
怒りに駆られれば胸は苦しくなるばかり、
平和こそはまことの喜び。
どうか気持ちをお収めください。
ロッサーナ
ただ愛だけを燃え立たせてください。
リサウラ
平和へと立ち返ってください。
ロッサーナ
どうか穏やかに。
ロッサーナとリサウラ
瞋りの心は高貴なお心に永くは留まりませんわ。
ロッサーナ
どうぞ落ち着いて!
リサウラ
お心を静かに!
ロッサーナ
平和。
リサウラ
静けさ。
ロッサーナとリサウラ
それこそ愛の欲するもの。
リサウラ
優しき喜び。
ロッサーナ
心からの愛情。
ロッサーナとリサウラ
瞋恚の心からそれは生まれないのです。
 
(退場)
 
Recitativo アレッサンドロ
人々と神々の中にあって、勝利と最高の栄誉を担い、
甘き悦びと注がれる愛に囲まれながら、休息のひとときを楽しむ。
まさに余にふさわしきことだ。
そして再び、さらなる高みへと至る新しき一歩を踏み出そう。
さすれば余の名声と主権は、太陽の彼方にまでとどろくであろう。
 
Aria アレッサンドロ
愛の園の安らかなひとときは終わり、
さらに誇り高く、より強く、栄光への道を進もう。
恋する者と戦士は、己の魂を呼び戻す。
  戦いの渦中で世界が余に屈するように、
  栄光の棕櫚のもと、余は愛に降(くだ)るだろう。
 
第2幕
 第1場
 
(宮殿の庭にある人目を遮るあずまやで。ロッサーナとアレッサンドロ)
 
Sinfonia  
 
Reci. accompagnato ロッサーナ
孤独な、恋する我が心よ。私はこの不幸な情念を言葉にしよう。
そうすれば、少しはこの悲しみも慰められる。
私は偉大なアレッサンドロを愛しているし、
あの人の愛情に見合うのは私だけだと思っている。
けれども、この理不尽な状況を、一人で切り回すのなんて無理よ。
誰か私を助けてくれる者はいないのかしら?
私に力を与えてくれる人は?
 
Arioso ロッサーナ
微風、湧き出ずる泉、涼やかな木陰。
何を私に語ってくれるの?
私はどうすればいいの?
もの思いに沈んで見せる?希望を抱く?
私はこの傷を愛でましょう、そう、この傷が、
まさにそれを与えたあの方の手で癒されるならば。
私は眠りに落ちる、静かな翼に疲れたまなこを覆われて。
微風、湧き出ずる泉、涼やかな木陰。
そして甘い眠りよ。
私があなたの誘いに応じるならば、
あなたは何を語ってくれるのかしら?
 
(ロッサーナは眠りに落ちる)
 
 第2場
 
(アレッサンドロとリサウラがそれぞれやって来る)
 
Recitativo アレッサンドロ
おや、ロッサーナが疲れ果てた様子で、草の上に眠り込んでいるぞ。
何て魅惑的な胸元、何と可愛らしい寝顔だ!
リサウラ
(隅のほうに立ち尽くして)
(独白:ロッサーナはお昼寝。その横にアレッサンドロがいる。
何が起こるか見ていてやりましょう)
 
Arioso アレッサンドロ
愛らしいルビーのような唇よ、さあ、キスさせておくれ!
 
Recitativo リサウラ
(独白:嫉妬で身動きもできないわ)
アレッサンドロ
(リサウラの姿を認めて)
(独白:しまった、リサウラに邪魔をされた)
(リサウラに)
可愛いリサウラちゃん、こちらへおいで。
沈み込んだ心の悲しみをなだめてあげよう。
ロッサーナ
(目覚めて)
(独白:何てことなの!あの人が恋敵の女といちゃついている。
ここは寝た振りをしていましょう)
アレッサンドロ
無情なリサウラ、どうかこの心の痛みに免じて、慈悲をかけておくれ。
昇る太陽も沈む夕日さえも私に屈服する。でもお前は抗うのか?
 
Arioso アレッサンドロ
誇り高き眼差しよ、余のもとを去ってがっかりさせることなどしないでおくれ!
(リサウラがわらう)
残酷な人よ、あなたは笑うだけ、何も答えてくれないのか!
リサウラ
(アレッサンドロをからかいながら)
愛らしいルビーのような唇ちゃん、さあ、キスさせておーくれ!
 
(退場)
 
Recitativo アレッサンドロ
行ってしまった。でも、決して悪意ではあるまい。
私を真実の愛にゆだねようということだな。
(ロッサーナに)
やっと可愛いおめめを開けてくれたね。
さあ、傷心の私を元気づけておくれ。
 
Arioso ロッサーナ
誇り高き眼差しよ、二度と私をがっかりさせないで頂戴!
 
(退場)
 
Recitativo アレッサンドロ
二人の小生意気な娘どもから、こんな扱いを受けるとはな。
世界の覇者たるアレッサンドロ様が、お笑い種にされたのだ。
この私を苦しめるのもは何だ?異邦の蛮族?奴隷ども?
私は愛に生きるものだが、同時に王でもある。
たとえ愛がそれらを許そうとも、王の尊厳はこの侮辱を耐え忍ぶことはできん。
 
Aria アレッサンドロ
見てくれの愛の誘い、誘惑は、
余の心を怒りで乱す。
  余が傲慢な女どもの気まぐれによって不当な扱いを受けるなら、
  愛は失墜し、ただ嫌悪と厳しい仕打ちにまみれることだろう。
 
 第3場
 
(リサウラとタシール)
 
Recitativo リサウラ
もう私のことは放っておいてほしいものだわ。
あなた、アレッサンドロが移り気な心を他の女に向けるのを見られるわよ。
まだよりを戻せると、私が恋焦がれてついて行くとでも思って?
そうこうしているうちに、私の辛い人生を嫉妬が食いつくし、破滅させるのよ。
もう私のことは放っておいて頂戴!
タシール
おお、残酷なリサウラよ。
我がため息は君の憐れみを誘わないのか!
リサウラ
アレッサンドロはあなたの愛に対抗して戦いを仕掛けてくるわ。
タシール
あの男が愛しているのはロッサーナだけだ。
君のことは愛している素振りをしているだけだぞ。
リサウラ
あなたの嫉妬からそんな言葉が出てくるんでしょう。
タシール
君を愛する者の言葉を信じてくれ。
 
Aria タシール
たとえ嘲笑されようとも、不幸に打ち捨てられたとしても、
美しき暴君よ、真実の愛は常に君のもの。
  私は君を愛する。そして私の心は耐え抜こう、
  我が貞節が責め苦に試されようとも、心は愛を裏切らないと。
 
Recitativo リサウラ
ああ、私はあの人の心が恋敵のもとへ行ってしまうのを見たのよ。
虚しい希望、苦い嫉妬が、際限なくこの魂を責め苛むの。
 
Aria リサウラ
愛は残酷なもの。
私が愛し、慕う方は逃げ去り、
気にかけることもない男が私を愛する。
  情熱を吹き消し、誰も愛さぬと決心したいの!
  ああ、でも無理。私の変わらぬ恋心は宿命だから!
 
 第4場
 
(室内で。ロッサーナとアレッサンドロ)
 
Recitativo ロッサーナ
私はここであの浮気な人を待っているの。
私の痛みは、あの不実の人から逃げて自由になったとしても、
更に深まってしまうのかしら。
あの人を恋敵のもとに残していく……
私にそれが出来る?
ええ、そうよ、やりましょうとも!
愛する者の想いに応えようとしない、軽薄で不誠実な人ですもの。
いつもその場しのぎばっかりで、そして……、あら、あの人が来るわ。
愛しい浮気者。ああ、あの人を恋敵に渡すなんて、やっぱり無理!
アレッサンドロ
愛の翼に乗って、余を待つお前のもとへ颯爽と飛んでまいったぞ。
さあ、尋ねるがよい。お前の待つのは余の言葉であろう。
おお、我が喜びの君よ!
ロッサーナ
あなたは栄誉を愛していますわね?
アレッサンドロ
そなたと同じくらいにな、可愛い人よ。
ロッサーナ
この私も愛してくださるの?
アレッサンドロ
そうだとも。
ロッサーナ
では、私に清らかな自由を与えていただきたいの!
私と栄誉と、両方を愛するというのが真実ならば。
アレッサンドロ
何とも困った望みだな!
お前に自由を与えたら、余から逃げ出すつもりではないか?
ロッサーナ
ひどいお方。私を愛してくださると言うけれど、私はまるで捕われ人。
これが愛なのかしら?
アレッサンドロ
余の真実の愛は自らを危険に晒さねばならぬのか。
お前が余のもとを去ってしまうかも知れないと考えると、
得体の知れない恐怖と冷たさがよぎるのだ。
ああ、余が愛しているもの、余を更なる行動へと駆り立てるのは、
そなただけであるということを、そなたは知っているではないか。
残酷な女よ。
多くの愛を捧げたのに、余のもとから去ろうとは。
偉大なる神よ、余の心はいったいどうなってしまうのか?
……好きにするが良い。
 
Aria ロッサーナ
飛びすさり、歌いさえずる小鳥も、
じきに彼女の金色の籠に戻りましょう。
どうしてかご存知かしら?
何故ならそこは、自由よりも甘美な牢獄だから。
  あなたはお分かりかしら?
  歌いさえずる小鳥が、何故金色の牢獄をお気に入りか。
  それはね、大好きなあの方が、
  よりいっそう自分を可愛がってくれることを知っているからなの。
 
(退場)
 
Recitativo アレッサンドロ
結局、彼女に分が回ってしまったというわけか。
立場が逆転してしまった。
余はあの娘の罠にまんまと嵌り、彼女は自由の身。……
いや、余は何があっても、決してリサウラにはなびかぬ。
そう決心したのだ。
 
 第5場
 
(そこへリサウラが登場する)
 
Recitativo リサウラ
寛大なお方。ロッサーナにお与えになった自由は、まさに偉大なお心の証ですわ。
そのお心は、他を征服するとともに、いや増してご自身をも御するのですわね。
ロッサーナ王女は故国への帰国を急ぐでしょう。
そのお国で、あなた様への賞賛の声が満ちるに違いありません。
アレッサンドロ
それこそ、もっとも価値ある英雄のねらいとするところだ。
余の心は、新たな輝ける功績に向けられておる。
余の更なる勝利のもと、晴れやかで明るい日が戻るであろう。
リサウラ
偉大なる栄誉への道程に、愛の伴侶とともに憩うことを望まないの?
アレッサンドロ
望まぬ。
 
Aria アレッサンドロ
余は心に決めよう。不実な恋人など御免だと。
愛と美は責め苦となり、幸福は鎖になり果てる。
  余は愛も美の望まぬ。それは不安をもたらし、
  喜び乏しく、苦しみばかりが多いのだから。
 
Recitativo リサウラ
あなたのお顔には偽りの平和が宿り、言葉は心とは裏腹の自由を語っているようだわ。
誰が知りましょう?自由を望むことが、希望を受け入れることが、報われない愛の証であることを。
ロッサーナは自由を、これまでのような隷属に耐える必要のない境遇を求めているのです。
 
Aria リサウラ
もし逃げ出す機会があるのなら、
罠にかかった雌鹿も、危険な森には帰らない。
  見掛け倒しの希望は、更にあなたを惹きつける。
  
 第6場
 
(宮殿の大広間にて。玉座のアレッサンドロ。タシール、クリート、レオナート、クレオン、その他大勢)
 
Sinfonia  
 
Recitativo アレッサンドロ
偉大なる業績の高貴な誉れは、そなたたちの輝ける努力に敬意を払おう。
フィリポにはマッサゲタイとピュロスを統治させる。バクトリアに君臨するのだ。
アンティパトロスハニケーアを、ブロンはブセファリアを治めよ。
クリート、お前にはインド全土を与える。
余は余の意にかなうものに褒美をもたらす。
全ての勝利をおさめた後には、栄光は余とともに。世界はそなたたちとともにあるのだ。
かくして、ゼウスの子は、慈悲の本懐をもって、全能の父の魂を証すであろう。
クリート
フィリポの息子からは、感謝と徳義を期待しましょうが、
ゼウス様の子から受け取るものは何もありません。
アレッサンドロ
余からの褒美を拒むというのか?
クリート
陛下はなぜ、ゼウス様を貶めるようなことをおっしゃるのです?
アレッサンドロ
余は雷神ゼウスの子である。
クリート
陛下は、お母上の名誉を汚すおつもりか。
アレッサンドロ
お前の侮辱にはもう堪えられん。
 
(彼は衛兵から槍を奪い取り、クリートに向けたが、タシールがそれを阻んだ)
 
タシール
陛下、お止めください。全世界を征服されたお方であれば、どうかご自身をも!
アレッサンドロ
不敬の輩、下劣な奴め!
 
(そのとき、玉座の上を覆う天蓋が何ものかの仕業により落下する)
 
クレオン
神々よ、救けたまえ!
タシール
おお、何が起こったのだ?
アレッサンドロ
何ということだ!
タシール
陛下のお命をねらってのことですぞ。
アレッサンドロ
ゼウスはいかなる時もその末裔をお護りくださる。しかし犯罪者どもを見逃すことはない。
余の物惜しみのない好意にもかかわらず、余を傷つけようと謀ったな。
タシール、インドの軍勢を固めるのだ。クレオンにはクリートの監視を任せる。怠るでないぞ。
クリート
さあ、我が胸に甲冑はありません。陛下の疑いでなく、憎しみの的として、
その短剣で突き刺すがよろしいでしょう。
このクリートは、二度に及んで敵軍の死の魔手からあなたを救い出し、
ご尊父フィリポ殿、そして他ならぬ陛下のために血を流してきました。
そして、数多の破壊と殺戮の中にこの身を置いてまいったのです。
そのクリートが、陛下に非難され、咎め立てされねばならぬと?
もし私を疑われるのでしたら、さあ、この胸を刺し貫いてください。
アレッサンドロ
うせろ、ならず者め!
 
(退場)
 
クレオン
私についてきて下さい。いまは大帝の怒りにふれておいでですが、
じき、大帝陛下もあなたの潔白にご満足されるでしょう。
クリート
おお、神よ、この不当な仕打ちを、どうかしっかりとお見届けください!
タシール
ご命令とあらば、私もインド軍の旗とともに一緒にまいります。
 
(退場)
 
 第7場
 
(ロッサーナとアレッサンドロ)
 
Recitativo ロッサーナ
おお、神々よ!何て悲運な知らせかしら!
アレッサンドロ様が、私の安らぎである恋人が非業の死を遂げただなんて!
おお天よ、私は何を見る?破滅とともに偉大なる魂が息をひきとるわ。
神々よ、彼を連れ戻したまえ!ああ、気も遠くなり、死んでしまいそう!
 
(卒倒する)
アレッサンドロ
最愛の人を救けねば!愛する人よ、いったいどうした?
危難よ来るがいい!暗黒の困難こそが、まことの愛を明らかにするのだ。
ロッサーナ
ああ、私の乱れた心を忌まわしい現実へと呼び戻そうとするのは誰?
……私は夢を見ているのかしら、夢でないなら、私の最愛のあの人が生きている?
アレッサンドロ
そうとも。そなたの見ているのは、真実の愛の喜びに満たされた者。
あの危難から脱して、そなたをこの胸に抱くことが出来る。
ロッサーナ
ついに、あなた様は私の心のすべてを勝ち取られました。
この気持ちを押し隠すことなど、到底出来ませんわ!
アレッサンドロ
おお、我が安らぎの君よ!
 
 第8場
 
(レオナートが登場する)
 
Recitativo レオナート
陛下、帰順したはずの者たちが、再び蜂起したようですぞ。
アレッサンドロ
余に逆らって地獄の怨霊どもと気脈を通じるつもりか。
だがロッサーナが余のもとへ戻ってくれるなら、恐れるものは何もなく、
それ以上望むものとてない。
余の額を飾る新たな月桂樹とともに、恋人よ、余を待つがよい!
ロッサーナ
勝利を信じておりますわ。それ以上に、あなた様の真心と愛を。
 
Aria アレッサンドロ
愛と忠誠に満たされた余の心は、
更なる栄光とともに帰るであろう。
だがそれとても、そたなへのまことと愛情には勝らない。
  名誉と報い、愛と勇気。
  それらは決して望まぬ、即ちそなたの美しさが無慈悲で臆病であることなど。
 
(退場)
 
Recitativo ロッサーナ
罪深き恐怖と痛々しき嫉妬よ、いざ消え去れ!
あの方が私を愛すると愛すまいと、私はあの方を愛すると誓おう。
この見出し得た愛と賞賛ほど、価値あるものが他にあるだろうか?
 
Aria ロッサーナ
偽りを語っても真実を語っても、
艶かしいその唇は私を虜にする。
  よし嘘を吐こうが悦びをもたらそうが、
  いつか真実を聞けるという望みを与える。
 
第3幕
 第1場
 
(クリートが幽閉された塔がある。それをクレオンの手兵たちが警護している)
 
Arioso クリート
なんと不運なことだろう。これも我が大いなる栄誉と誠のゆえなのか。
 
Recitativo クリート
太鼓もちのお出ましか。
クレオン
クリートよ、怒りに満ちた大帝陛下のお気持ちを、どうやって和らげるつもりだ?
陛下が全世界を平定させるように、自分自身の行いを御する気にはならないのか?
お前は誠実なやつだと信じている。だが、陛下に対しては度が過ぎているぞ。
クリート
お前に答える必要はない。
 
 第2場
 
(武装した兵隊を伴ってレオナートが登場する)
 
Recitativo レオナート
クリートを引き渡せ。さもなければクレオン、お前の命をもらう。
クレオン
どういうつもりだ?
レオナート
見ての通りだ。
クリート
忠実なる友よ!
クレオン
裏切る気か?
レオナート
獄舎を解放し、我が友人を連れてくるのだ。
クレオン
大帝陛下は何と言っておられる?
レオナート
陛下は収監に値する輩をこそ獄に繋がれる。お前のことだ。
自由の身も命もこれまでと思え。
(クリートは塔から釈放され、代わりにクレオンがレオナートの手兵によって閉じ込められてしまう)
さあ、クリートよ、自由の身だ。この腕に抱かせてくれ。
君もよく知っているマケドニアの武将たちも馳せ参じている。ともに暴政の鎖を取り除こうではないか。
クリート
そうとも。私に対するひどい仕打ちに復讐するのだ。あの男の乱暴なプライドを蹴散らしてやろう。
マケドニア人は無礼を受け入れることは出来ぬ。君と共に、下劣なる鎖を跳ね除けてやろう。
兵士たち
武器をとれ!いざ戦いへ!
 
(退場)
 
クレオン
騙された挙句に捕われの身か。誰も助けに来ようとしないのか。
臆病者どもめ。
(そこへクレオンの手兵たちが戻ってくる)
この忌々しい塔の門扉を叩き壊せ!
(兵たちが門扉を破壊する)
怒れる大帝陛下は極悪な反逆者どもを罰し、私と陛下ご自身の仇を討つことだろう。
 
Aria クレオン
私は炎の上を渡る風となって、
怒りの火をいよいよ燃え上がらせる。
  高慢な敵どもが滅んだあとにこそ、
  玉座の信頼を独り占めできよう。
 
 第3場
 
(庭園にて。リサウラとロッサーナ)
 
Recitativo リサウラ
ロッサーナ、自由になって、ここから去ってしまうつもりなの?
あなたを愛する人を、捨てることが出来るの?
ロッサーナ
リサウラ、もうこれからは、嫉妬や罠やペテンなんかに捉われないようにするのよ。
私たちはどちらも世界の征服者を愛している。
どちらがアレッサンドロの心をより強い忠誠心と真心を以って虜にするかなのよ。
リサウラ
そんな殊勝なお話で私に勝とうという目算ね。
ええ、私たちはともに勝利の英雄を愛しているわ。どちらかが喜びに昇るでしょうね。
でも、いずれの愛も、ともに輝かしく特別なのよ。
 
Aria リサウラ
私はひまわりの花のように生きてみたい。
そうよ、太陽に顔を向け、その輝きを見つめて幸せに包まれる。
  でも私はひまわりではない。私が追うのは私を苦しめるもの。
  ひまわりは自分に生命を与えるものを追いかけるのですもの。
 
(退場)
 
Recitativo ロッサーナ
自分の中に、魂を満たし、心を慰めてくれる例えようのない喜びを感じるわ。
愛がこう呼びかけてくるの。希望を持て、お前はきっと幸せになれると。
偉大なる神々が、世界の覇者を虜にするのに助力してくれる!
我が身に全き祝福あれ!
そして、私の偉大な運命があなたの栄光を証しますように。
 
Aria ロッサーナ
我が魂の煌きの中、未知の甘美な豊穣にひたる。
私の心は大いなる喜びに満たされる。
  平和のうちに海は碧く輝き、陽は降り注ぐ。
  光を受けて波は穏やかに揺らいでいるの。
 
 第4場
 
(リサウラとアレッサンドロ)
 
Recitativo リサウラ
なんてひどい仕打ちかしら。野心と愛の両方に悩まされるなんて!
でも、もっと良くないのは不確実であること。
私の心はあらゆる疑いから自由になれるかしら。
あの不誠実なお方がやってくるわ。
アレッサンドロ
愛しいリサウラよ…
リサウラ
そんな呼び方はやめて頂戴。ひどいお方。
私はあなた様のお目には適っていないのでしょう?
高貴なお心はご自身を偽ったりするべきではありませんわ。
私があなた様にそうしているように、あなた様も心をお開き下さい。
あなた様は、私と同じ気持ちの素振りをして、私をぬか喜びさせただけ。
どっちつかずの状態から、私を自由にして頂きたいの。
アレッサンドロ
リサウラ、余はそなたを愛することは出来ぬのだ。忠実な友を裏切ることになってしまう。
常に余のために命を危険にさらしてきた、インドの王がお前を愛しているのだから。
いったいどうして、彼からその高貴な愛を奪うことが出来よう。
余はこれまで、そなたの崇拝者であり友人であったが、これからも変わることはない。
余の帝国はすべてそなたのものだ。
リサウラ
おっしゃることはよくわかりましたわ。
けれど、その寛大なお心に対して、私には差し上げられるものが何もありませんの。
 
Aria リサウラ
私の愛が願うものは、この心の痛みに釣り合うあなたの幸福。
お幸せにね。私もそれで満足しましょう。
  あなたの愛するお方はなんて幸運なのかしら。
  でも、私ほど誠実ではないけれど。
 
(退場)
 
Recitativo アレッサンドロ
かくも思いやりに溢れた心こそ、愛に値するもの。
しかし、一人ロッサーナこそが、余の真の愛を支配しておる。
 
 第5場
 
(タシール、アレッサンドロとロッサーナ)
 
Recitativo タシール
陛下、何を思いつめておいでですか?
アレッサンドロ
リサウラのことだ…
タシール
おお、何ということ!
アレッサンドロ
誤解するでない。リサウラの高貴な心は、余の想いに打ち克った。
すべてはロッサーナに与えられ、ロッサーナに帰す。
さあ友よ、喜び合うとしよう!
タシール
私に笑顔を取り戻して下さるか。何という幸せ!
ロッサーナ
アレッサンドロ様、何をしていらっしゃるの?謀反人たちが左右から攻めて来るわ。
クリートとレオナートが、マケドニア軍をけしかけたのよ。
アレッサンドロ
クレオンはどうした?
ロッサーナ
レオナートが、力づくでクリートのいた塔に閉じ込めてしまったわ。
アレッサンドロ
反逆者どもを連れて来い。余ひとりで片をつけてやろう。
ロッサーナ
だめよ、逃げてちょうだい。私を愛しているなら、あなた様の身の安全を第一に。
タシール
陛下、我が最強のインド軍もお供いたしましょう。
陛下をお護りするためなら、死をも覚悟しております。
すぐ行って、戦隊を整えます。
(退場)
アレッサンドロ
ロッサーナよ、しばしの別れだ!
余は一人で、必ずや反逆者どもを黙らせてやろう。
そして我が心は閃光の如き速さで、お前の胸の中に戻って来よう。
  
Aria アレッサンドロ
愛しき瞳よ、お前は我が勝利のしるし。
  麗しき瞳よ、もし汝が余の二つの星であるなら
  海の嵐の予兆すら恐れるに足りぬ。
 
(退場)
Recitativo ロッサーナ
永遠なる神々よ、ああ、あなたはこの偉大なる英雄の命を無残にも奪い去ることが出来るのでwすか?
どうか、あのお方の徳と勇気を護り給え。どうか、戦の猛り狂う炎を鎮め給え。
全能の神々よ、地上を支配するものの徳を示し給え。
 
Aria ロッサーナ
我が魂のなかに、嵐と静けさが交錯する。
恐怖が兆したかと思えば、次の刹那に希望が芽生える。
  私の愛する人に何が起きようとも、私は不安とともに待ち続けよう。
  それは途方もない悲しみだけれども。
 
 第6場
 
(クリート、レオナート、兵士たち。そしてアレッサンドロとタシール)
 
Coro 兵士たち
傲慢な反逆者どもめ、
いますぐその思い上がりを挫いてみせよう、
我らこそがその狂気を打ち砕くのだ。
 
Recitativo アレッサンドロ
無謀にも余に刃向かおうという愚か者は誰か?
レオナート
(独白:胸が押しつぶされるような気迫だ)
クリート
(独白:驚きと恐怖、そして畏敬の念で身動きも出来ない)
タシール
勇気よりいや増す高貴な静けさにより、マケドニア人が再びあなた様に帰順しましたな。
陛下、王宮での一件は、オクシドラカの残党一味の仕業でした。見つけて鎖に繋いでやりましたよ。
クリート
今や謀反に係る疑いは晴れた。武器を地に投げ捨てよう。
偉大なるアレッサンドロよ、我らの忠誠と勇気は、あなたに慈悲を乞い願う。
我らはあなたのために、勝利にも死にも赴こう。
アレッサンドロ
そなたたちを許すとしよう。
 
Aria アレッサンドロ
敗者を赦し、驕りを御するは賢者の証。
  慈悲による統治こそ、玉座に輝く完全なる徳のしるし。
 
 第7場
 
(ゼウスの神殿。ロッサーナ、リサウラ、タシール、そしてアレッサンドロたちの入場)
 
Reci. accompagnato ロッサーナとリサウラ
おお、至高の支配神よ。おそろしい戦の炎を消し去り給え。
そして勝利をもたらし、平和を下賜給わんことを!
 
Recitativo タシール
陛下のお姿を見、お声を聞いただけで、仲違いはなくなり、軋轢は消え去りました。
二人の恭順は、寛大なる赦しを以って遇されたのです。
 
Reci. accompagnato ロッサーナとリサウラ
偉大なるゼウス神よ、徳高き正義と英雄的なその行いは、いや増して褒め称えられましょう。
 
Recitativo アレッサンドロ
めぐり来た平和とこの佳き日を祝福しよう。
栄えあるリサウラよ、そなたの広き心に勝るものはない。
今や、それは友情の証として人々の心に刻印されることだろう。
そのしるしとして、余の魂を差し出し、そなたの力となろう。
麗しきロッサーナよ、余はそなたの愛らしさに屈服しよう。
壊れることなき愛の絆の中で、そなたと手を取り合い、そなたに我が心を捧げよう。
ロッサーナ
何という幸せ。これ以上のことはないわ。
タシール
高貴なるリサウラよ、どうか我が誠の愛に憐れみを!
リサウラ
誠実なるお気持ちに、愛と貞節を以ってお応えしますわ。
 
Duo e Coro アレッサンドロ
堂々たる名誉のうちに、素晴らしき人よ、余は自らの心を分け与えよう。
しかしそなたへの友情だけは、誰にも譲るつもりはないのだ。
リサウラ
私は常に、あなた様の気高き勇気を讃えましょう。
今すでにこの時、私はあなた様に忠実なる者なのです。
アレッサンドロ
愛する人よ、そなたの美しさは唯一余を支配するもの。
運命と愛とは、そなたの美しき顔の中に余の心の平和を置いた。
ロッサーナ
もし私に美しさがあるのでしたら、それはあなた様だけのもの。
私が望むのは、ただ誠実な恋人としてあなたを愛することだけ。
 
Coro アレッサンドロ、ロッサーナ、リサウラ
我らの真実に満ちた愛と友情の上に、
天は友好の微笑みをもたらす。
変わらぬ愛と貞節に満ちた、
喜びの日々を迎えよう。
全員
変わらぬ愛と貞節に満ちた、
喜びの日々を迎えよう。
 
終わり
 
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